第529話 お前誰だよ
「うっうっ」
オリエント彫刻のような女だった。服は脱がされ下着姿なので黄金比に均整が取られた体は見せつけるように晒され寝かされている。メリハリのある体の影が白磁のような白い肌を一層際立たせる。
こんな時代に女海賊なんかしているよりモデルになった方がよっぽど稼げていい暮らしが出来ただろうに、つくづく残念な女だ。
そんな残念女海賊村上の目がうっすらと開けられていく。
ならば俺も仮面を被るとしよう。
まだ視界がぼやける目に青年が映し出される。
「あっ気が付きましたか」
子犬のような屈託のない笑顔を青年は向ける。
「こっこは私は一体・・・」
上半身を起き上がらせようとしふらついた彼女を青年はさっと卵を受け止めるように優しく支える。
「無理はしないでください。あなたは打ち上げられていたんです」
青年は労わるように支え続け村上は周りを見る。
見通しは悪い。窪地なのか周りは土が盛り上がって土壁のようだ。でもおかげで強い風に吹晒されることはなく、優しいそよ風が流れ込んでくるだけだ。
村上を介抱するためにここに運んだのだろう。
「そうだ。私はあの化け物に挑んで・・・、はっ」
村上は自分が下着姿で男の前にいることに気付いて青年から体を背けるようにする。
演技かもしれないが女海賊なんかやっているからガバガバのユルユルかと思ったていたが女らしさは残っているようだ。
「すいません。あの水に濡れた服を着たままだと良くないような気がして脱がせました。流石に下着は取れませんでしたけど」
青年ははにかむように頭を掻きながら言う。
「私の服はどうした?」
村上は女海賊を名乗っているが露出が派手な服でなく、高価な生地が使われてたフォーマルに近い有能な秘書かキャリアウーマンかのような青のスーツを着ていた。今はその服は剥ぎ取られその美しい肉体を魅せつけている。
「ここからでは見えないでしょうけど、近くの木を使って干してます。ちょうどいい棒があったので助かりました。もう少ししたら乾くと思いますので取ってきますよ」
青年は悪気は無いようであるが、それなら自分の服を脱いで一応女である村上に掛けてあげても良さそうだが気が利かないのか。
「お前はこんな所にどうしている?」
どう見ても人が住んでいるような場所には見えない荒野である。そんな場所に一人いるなんて怪しまれてもしょうがない。
そもそも下着姿の自分を見て青年の目に劣情の色が全く見えないことに村上は戸惑いを感じていた。
数々の男を手玉に取ってきた魅惑の最強武器が通じない。
単なる不能なのか。流行りの草食系を超えた植物系なのか。強靭な精神力を持って演技をしているのか。
自分の肉体に興味を示さない青年に村上は猜疑の目を向けるが、青年はよくぞ聞いてくれたとばかりに話し出す。
「それですよ。実は村上さんが僕達の為に戦った後フェリーはこの島に連れてこられたんですけど強盗団に襲われて女の人が連れさられたんです。僕は女の人を助けるために彼奴等の後を追っていたんです。正直僕弱いしあんな怖い人達からどうやって助け出さそうか悩んでいたんですけど。そこで打ち上げられた村上さんを見つけたんです」
青年は要点をまとめられないのかマシンガンの如くあったことを羅列していく。村上は呆れ果てた顔で取り敢えず話すだけ話させようと口を挟まない。
「全て解決しました」
「?」
青年の天啓得たりとばかりの顔に村上は呆れ顔から困惑顔に変わる。
「村上さんがいれば強盗団なんて楽勝ですよね」
「何を言っているんだお前?
そもそもお前誰だよ」
「これは失礼しました。及己 久遠。帝都大学生です。あなたと化け物との戦いは甲板で見ていました」
「大学生、ああ旅行かなんかだったのか。不幸だったな」
村上はさり気なく胸を強調したポーズを見せてみたが、及己に隙がありそうで隙は伺えなかった。
「そうでもないです」
「何が?」
「村上さんに会えました。
村上さんってヒーローなんですよね」
「はあヒーロー?」
「だってあんな魔法を使って化け物から僕達を守ろうとしてくれたじゃないですか。しかもカッコよく名乗りは上げるはポーズは決めるは。
もう完全にヒーローですよねヒーローでしかないです。
僕昔からヒーローに憧れていたんです。
今回は一歩及ばず敗れてしまいましたけど、次はきっと勝ちます。ヒーロー物の定番ですね」
及己は目をキラキラ輝かせて言う。
「本気で何を言っているんだお前」
「まずは強盗団を倒して女の人を救いましょう」
及己は人の良さそうな青年風でいて村上の話など一切聞くことなく話を進めていくのであった。
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