第526話 最低の女の敵のクズ外道

 神殿内の寝所、ギリシャ神話の映画のセットのような壮麗な内装で輝いていた。

 大理石の柱には微細な彫刻が施され、中央にある天蓋から垂れるレースにも細かく美しい文様が編み込まれている。そしてベットにはシルクのシミ一つ無い純白のシーツに傍若無人に皺を寄せ寝ていた青の巫女の上半身が起き上がった。

 薄い毛布がハラリと落ちれば豊満な胸が露わになる。晒される成熟した女性の体には脂肪が薄っすらと乗っているのみ。青の象徴でありながら男の獣欲を掻き立てずにはいられない女の体をしている。

「赤を感じる」

 青の巫女は素足で床に降りる。それでも埃一つ無い床故にスライムのように滑らかなで張り付くような足裏が汚れることはない。

 王侯貴族のような手入れがされた部屋でいながらメイドなどは一人もいない。自分一人で掃除や洗濯をしているのだろうか? そもそもこの部屋の調度品など漂流物とはとても思えない。どうやって入手しているのか、謎は深まる。

 青の巫女はベットの横にきちんと畳んでおいた服をするすると流れるように身に着けていく。秘部を隠し胸を覆って服を纏うと最後に杖を持つと寝所から出ていく。

 青の巫女は神殿から出てくると特に周りを気にすることなく真っ直ぐ崖傍まで歩いていき、煙が上がっている方を見る。

「赤」

 青の巫女は忌々し気に呟くと飛んでいくつもりか崖から身を投げ出そうとし、そのタイミングで隠れていた俺は飛び出すと青の巫女に背後から抱き付いた。

「きゃあ」

 意外と可愛い声が聞こえた。

 一歩間違えば崖下にダイブするだけの投身自殺だったが上手く抱きつけ、飛び出す寸前だった青の巫女と共にそのままダイブした。

「何!?」

 青の巫女は飛びながら振り返ってくる。

 ここからだ。

 ここからが本番だ。

 俺は心を殺す。

 そんな俺を青の巫女は見定めようとするが俺が青か赤か判別できないようで困惑している。

 このままでは俺は抱きついているだけで誰にも出来るし何の進展も望めない。

 心を殺し行動に移行する。

 俺はマシーン。

 命令をプログラムのように実行するだけのマシーン。

 其処に何の感情もない。

 俺は女体を快楽に溺れさせるセックスマシーンだ。

 俺は豊満な青の巫女の胸に手を回すと優しく揉み出した。

「きゅん」

 青の巫女の表情に朱が走り、可愛い女の顔を見せる。

 だが俺の心は凪の如く動かないときめいてはいけない。

 ただ女の反応を数値化し愛撫の力加減にフィードバックするセックスマシーン。

 どんな欲情も湧かない。湧いてはいけない。

 ただ機械の如く手順通り女の急所を揉み、反応を見て力加減や場所を変えていく。

「なっなにを」

 青の巫女は俺を見るが何もしない。振り落とすことすら出来ない。

 なぜなら俺は赤じゃないから。

 推測だが赤とは青と対極。

 青が欲望を捨て去った一種の悟りの極地、人間の業から解放された状態だというなら、赤は怒り憎しみ嫉妬、そして欲情などの人らしい感情の発露。

 もし女の体を弄んで俺の心に僅かにでも欲情が湧けば、青の巫女は俺を赤と見なして女海賊の如く浄化するだろう。

 俺が今生きていられるのは何の感情も湧いていないから。赤の感情がなければ青の巫女にとって俺は浄化する対象にならない。

 人を青と赤で判別してきた青の巫女にとって俺をどうしたらいいのか判断出来ない。

 故に見逃される。

 柔らかい胸を揉みつつ感触から弾力を数値化しつつ、青の巫女の体の反応にも気を配る。

「あん」

 軽く喘ぐ青の巫女。

 頬の紅潮。赤を何段階にも分けて認識。

 吐息。息の吐く量から温かさをこれまた何段階も理由で認識。

 目の潤い。瞳孔の開き具合。

 俺の愛撫に対する青の巫女の女体の反応を事細かに認識し数値化する。

 命がけの愛撫を初めて三分、数値データは十分集まってきた。

 ここで最適化を行いフィードバックする。

 ここからは更に青の巫女の女体の弱点を的確に最高の力加減で愛撫できる。

 それでいて欲情は微塵もしない、更なる青の巫女専用のセックスマシーンと俺は進化した。

 ここで俺の愛撫に対して青の巫女から何の反応も返ってこなかったら計画は終わりだったが、俺の推測は間違ってなかったようだ。

 俺が命懸けでありながら男として何の楽しみもない愛撫をしているのは青の象徴たる青の巫女に赤の感情を湧き出だたせる為。

 ここで生まれた人間なら肉体は人間。

 特殊な環境で感情が人と異なり言葉や雰囲気で情を盛り上げることは出来ないだろうが肉体的情欲はあるはず。

 ならば肉体的触れ合いの愛撫をするしかない。

 憎しみでも嫌悪でも欲情でも情を蘇らせることが出来れば活路が開ける。

 最悪出来なくてもフェリーの現場に素早く付ける。上手くいけば赤の民に接触できるかも知れない。


 俺は現場に着く数分間に全身全霊を賭けて愛撫をするのであった。

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