第512話 幕引き

「此方特務隊S。ステルスを解除し連絡を行う」

『何があった。帰投するまでステルスモードで一切の連絡はしない予定だぞ』

「時間が無い端的に報告する。

 ターゲットの奪取には失敗。プランDに切り替えて実行。プランDは完遂。帰投を開始するも米帝に捕捉され追撃されている。

 追跡を振り切れない公算高し。米帝との一戦は避けられない。これより本艦は再度ステルスモードに移行する為、これが・・・ぐわあああああああああああああああああああ」

 ドッカーーーーーーーーーーーーーーンと爆音が響く。

「右舷に魚雷が被弾。浸水止められません」

「隔壁を降ろせ」

「くそっ米帝の潜水艦だ。追跡されていたのか駆逐艦は目を逸らす囮?」

『何があった報告しろ』

「敵魚雷第二波来ます」

「最大船速。面舵一杯」

「エンジンの出力上がりません」

「機雷投下」

「機雷投下しました」

「やった敵魚雷機雷に引っ掛かりました」

「良しっ」

「艦長っ、対艦ミサイルです」

「なにっ!? 対空防御しつつ面舵一杯」

「駄目です。先程の攻撃で破損し舵が効きません」

「近接防空システム作動」

 ステルス艦から対空の機関砲が火を噴くがミサイルはこれを回避したのか、再度ドッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンと先程より大きい爆音が響く。

『轟音がしたぞ。どうした何があった?』

「浸水浸水。船の傾斜を止められません。復元限界まで・・・」

 ビーーービーーービーーーーとけたましいアラーム音が鳴り響く。

「ぐっここまでか。本懐は機密保持の為自沈する。

 祖国に栄光あれーーーーーーーーーーーーー」

 ここでプツッ音声は切れた。


 窓からは海が見える豪華な赤を基調とした飾り付けがされている司令官室において若い士官が先程の音声を流していた機器のスイッチを止める。

「これが近くで哨戒を行っていた艦と特務隊Sとの交信記録です」

「そうか」

 若い士官から報告を受けていたでっぷりと肥え太った少将が重く溜息を吐き出した。

「超兵に最新のステルス艦、実験体の超兵は兎も角ステルス艦は失うには大きすぎる損失だな」

「しかし報告を受けていた研究が完成すれば歩兵の概念は覆されます。決して無駄な犠牲ではありません」

 戦場に投入される量産された魔人達。いやそれよりテロに使われる方が何倍も怖い。手ぶらで歩き回りフル装備の歩兵より遙かに高い攻撃力を示す。もはや一般の警察では治安維持が不可能になる。

「だが本当に魔などいうものを人の手で制御出来るのか?」

「何を言います。我等の科学力は原子力すら操って見せたでは無いですか。必ず克服できます」

 若い士官は輝かしい未来を信じ切って自信満々に答える。

「それにしてもだ。スパイに研究結果だけを掠め取らせる利口だったな。欲を搔きターゲットや研究成果だけでなくステルス艦まで失った。

 古来より我が国の賢人が言うように身の程を知るのは大事だぞ少佐」

 その言葉含蓄が実感として籠もっていた。伊達に政争が激しい大陸の軍部でここまで上り詰めたわけで無い。

「肝に銘じておきます。

 それで本作戦の処理はどうしますか?」

「どうするも何も。報告通りならターゲットも研究経過も炎で焼かれたのだろ。作戦は終了だ。それに伴い作戦の責任者の拘束及び財産没収。それで少しでも穴埋め出来ればいいがな」

「了解です」

「それとこの件からはきっぱりと手を引け。これ以上藪を突くようなマネはするなよ。遺憾の国は兎も角米帝は暫くモグラ叩きに躍起になる。折角築いたスパイ網を損失するわけにはいかない」

「しかる時の為にですね。

 責任者に責任を取らせた後は速やかに手を引きます」

「うむ」


 こうしてみぞれは大陸側に取って死亡したと記録されたのであった。失敗が許されないお国柄上の判断で記録された以上みぞれの生死について今後確認されることはないだろう。

 酉祕島は幾多の犠牲の下再び平和を取り戻したのであった。

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