第504話 一

 悪意が注がれる子宮

 いずれ悪意の重さに耐えかねて狭間の世界に沈んでいくだろう。

 だがここは子宮

 長いときの果てに何かが生まれるかも知れない

 例えば魔王とか


 穴に飛び込めば呑み込んだ人間の悲鳴と地上以上の密度と量の悪意が渦巻いていた。

 悪意は新たな生け贄に殺到する。

 みぞれは咄嗟に腕でガードをするが、悪意を物理的にガードできるわけがなく、あっさりと悪意に飲まれた。


 膣口 口腔 肛腔を三人の笑う音見沢に犯される

 ぎゃああああああああああああああ

 穴が裂けそうになる激痛に僅かな快楽が入り交じる

 パンパンパン パパン

 腰が激しく打って引かれて音見沢が分裂する

 膣口 口腔 肛腔 乳腔を五人の笑う音見沢に犯される。

 ぎゃあああああああああああああああああああああ

 パンパンパンパンパン パパパパパン

 膣口 口腔 肛腔 乳腔 眼孔 耳腔 臍腔を十人の笑う音見沢に犯される

 ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ

 パンパンパンパンパンパンパンパンパンパン パパパン

 膣口 口腔 肛腔 乳腔 眼孔 耳腔 臍腔 鼻腔 尿腔を十三人の笑う音見沢に犯される

 ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ

 穴が裂け全身が砕かれるような激痛に快楽というスパイスがまぶされ、激痛に単調じゃ無い重厚さが生まれ生まれたことを後悔する

 でもこれでさえ生やさしかった

 全身の毛穴に無数の赤いイトミミズとなった音見沢が潜り込んできて犯される

 ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 

 果無さんを助けるなんて思いは一瞬で掻き消えた。私にこの拷問に耐えるだけの強い心なんてなかった。

 ただ泣き叫ぶだけだった。

 

 激痛に快楽のスパイスと気持ち悪い隠し味が加わった苦のハーモニーに晒され、もはや無に成ることだけを願う廃人になる寸前を見切って肉体的拷問から精神的拷問に変わる


 小さい頃は母がよく父に嘆いているのを物陰から見ていた。

  あの子といると目眩を感じるの何かあの子は違うわ

 だからなのか愛されようと捨てられないように

  必死にいい子でいようとしていた

 そのおかげか両親は最低限の義務で私を捨てること無く育ててくれた。


 なんとか維持してきた居場所

 必死に生きていても悪意も持った人間1人に出会っただけで簡単に運命から転げ落ちる。

 人より堪え性が無く人より早く性に目覚めていたガキ大将とたまたまクラスが一緒になって、目を付けられた。

 外で変な噂を立てられないようにとあまり人と関わらないようにしていた。

 それでも私は自覚が無かったのだが、私の容姿は人を惹き付けるようだった。

 そして大人しくしていたことで組みやすいと思われてしまった。

 日直の仕事で遅くなった放課後だった。

 人影は少なくなり黄昏の影は教室に差してくる。

 帰ろうとした私を数人の男子が囲み、ガキ大将が言った。

   やっちまおうぜ

 ガキ大将の顔が欲望に歪み手が私の胸に伸びてきたとき

   私の中の何かが弾けた。

 気付けば、男子は皆床に転がり発狂していた。


 錦の御旗を手に入れた者達の餌食になった。

 鳴り止まない電話

 家の壁は誹謗中傷の落書きだらけになり

 お母さんが手入れをしていた庭はゴミだらけになった。

 お母さんはただ泣いていた。

 お父さんは口を一文字に閉じて一点だけを見詰めている。

「お父さんお母さん、お嬢さんを私に預けませんか」

 一家心中一歩手前だった家に来たのは神狩先生だった。


 青空の下青い海の上を行く船上にいた。

 気持ちいい風に何処までも青い世界が伸びていた。

「何処に行くの?」

「長閑でいいところさ。そこで君の病気を治そう。そうすればまたお父さんお母さんと一緒に暮らせるよ」

「はい」

 病気を治す。

 そうすればまたお父さんお母さんと一緒に生活が出来ると希望が湧いた。


 未来が開けると思った島でも駄目だった。

 私はどうしようもなく悪意を惹き付けるのだろう。

 裸で逆磔にされ人殺しと罵られた。

 もう居場所なんて何処にもない。

 このまま死んだ方がいいのかもしれない。

 

 悪夢がトラウマが繰り返され心を蝕んでいく

 でもこの場面

 この場面の先に

 手を差し伸べてくれた人がいた。


 その一瞬の光景に、一瞬だけ蝋燭が最後に燃え上がるように私の意思が燃え上がった。


 私はみぞれ

 雪のようで雪で無く

 雨のようで雨で無い

 どちらでもなく どちらでもある

 雪と雨の境が消えて花のように天に咲き誇る


 人は五識 眼識、耳識、鼻識、舌識、身識をもって世界を知る。

 即ち近寄って世界を分けて識る

 でも私はみぞれ、遠くに離れて混じり合って咲く花。

 即ち五識の識はなくなり光も音も香りも味も食感も混じって区別なく感じる

 だから私の所為で目で音が見え 耳で臭いが聞こえたりする。

 でもこれじゃあ駄目。

 これでは人は狂わせられても悪意には勝てない

 私ではあの人のように悪意に心では勝てない

 だから魔の力で悪意に勝つ


 今こそ今だけでも私は我を通す

 悪意と善意を識る五識を超えた意識よ 

 みぞれ


 ディスプレイに映し出された綺麗な画像

 近寄って見ればドットに分かれ

 離れていけば混じりあって絵となり一色になる

 つまり近寄れば悪意と善意と別れるが離れれば混じり合う花となる

 

 もっと

  遠くに

 もっと

  大きく

 巨人の如き高見から俯瞰するが悪意と善意は斑模様

 まだ足りない


 もっともっと

  遠くに

 もっともっと

 大きく

 遠くに大きく

 意識が果て無く遠ざかり大きくなっていき

 月から地球を見下ろすが如き

 悪意と善意はグラデーション

 だがまだ


 もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと

 弾けて広げれ私の意識

 ビックバン


 銀河すら掌に乗せる太極の果、善も悪も堺が無くなり混じり合う

 すなわち、太極に至りて一となる。

 

 全てが混じり合い一になった世界にあって

 砂粒の如き特異点 我の極地 あの人がいた。

 よかった。

 早く、・・・・

 ・・・。

 私は何を?

 そもそも私は何?


 太極に到り、我は広がり拡散していく

 個人の意識など海にあって溶けて拡散する塩の如し、我は拡散し己が希薄になっていき完全なる一となる。

 それは必然、仏の世界。寧ろみぞれが我を捨てた先にある太極に到りて我を僅かとはいえ残しているのは奇蹟である。


 駄目

 まだ駄目

 私はまだ消えてしまうわけにはいかない

 私は間もなく自我が拡散して一となることは分かる

 でも、後数瞬だけ保って


 仏が衆生を救済するかのようにあの人を掬い上げ、天に掲げていく

 ぽっかり天に空いた穴

 そこから現実世界へ帰してあげられる

 あと少しで手が外に出る

 それまでは我が消えてしまうわけには行かない

 私の最後の我「あの人を助ける」

 人生で初めて願った譲れない思い

 その思いだけで我を繋ぎ止め、願いが叶えば我は消え私は一となる。 

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