第464話 ない代わりにあった

 軟らかい肉の穴に溺れていく。

 赤くイソギンチャクのようにうねうねしたビラが肉穴から沸き上がり纏わり付いてくる。

 ビタッと張り付くような肌触り、軟らかく暖かい。

 優しく気持ちよく包み込むように肉穴に誘っていく。

 それでもこの先に未来はないと必死に足搔く

 手を必死に動かし

 足を必死にばたつかせる

 だが払っても払って

 ビラは絡みついてきて肉穴に呑み込まれていく。

 ヒダが煽動し全身が按摩されるかのように飲まれていく。

 全身が陰茎になったかのような快楽。

 快楽に溺れさせ、肉穴は決して逃がさず呑み込んでいく

 ねっとりと肉に包まれ

 どこまで自分の肌でどこからが肉穴の壁か境が曖昧になり

 意識は快楽一色に染まり夢すら見ない眠りに誘われていく

 快楽のままに眠りなさいと囁く声

 だが快楽しか無い意識の眠りは死と何が違う?


「はっ」

 目をかっと見開き天井が見える。

「はあっはあ・・・」

 全身から汗が噴き出し動悸息切れがする。まるで土葬から蘇ったような気分だが思考は一気に覚醒している。

 木張りの天井木目すら見える、蛍光灯の点滅の音、そして磯の臭い。

 ここはどこだ?

 体を起こそうとするが重い。

 布団を撥ね除ける力が弱く、囚人の如く胸に錘でも付けられたようだ。

 それでも何とか起き上がり布団がはだける。

 自分の腹の様子が見えない、肉の膨らみに遮られているからだ。

「えっぇ!?」 

 鏡が欲しい。

 早急に可及的に速やかに今の自分の全身を確認しなくては・・・。

「ん?」

 鏡は無いかと部屋をぐるっと見渡せばベットの脇に少女が俯していた。

「ふぁあああ~」

 俺の動く気配に反応したのか少女が目覚め出す。

「良かった」

 俺を見て静かに微笑んだ少女から俺を心配していたのが伝わってくる。

 俺はこの少女に心配されるような謂れがあったであろうか?

「あれから全然目覚めないから心配しました」

 うっすらとだが記憶が蘇ってきた。

 海岸で倒れていた俺を助けようとしてくれた少女だ。

 あの後俺はここに運ばれたようだな。

「君が俺を助けてくれたんだね。

 ありがとう」

「そっそんな私なんて、見付けただけで、ここに運んだのは先生ですし・・・」

 人から感謝され慣れてないのか照れ隠しか手をあたふたさせて否定する。

「でも、ずっと付いていてくれたんだよね。ありがとう。

 君は優しい娘だね」

「そっそんなことないです、私なんか・・・。

 そうだ先生を呼んできますね」

 耳を真っ赤にして俯いてしまった少女はそのままこの場を去ろうとする。

「あっちょっと待って朽草さんでいいだよね」

 なんとか覚えていた名前を俺は告げる。

 流石にみぞれちゃん呼びは馴れ馴れし過ぎるだろうし、俺のキャラじゃ無い。

「はい」

「先生もいいけどどこかに鏡無いかな?

 自分をちょっと見たいんだ」

「やっぱり女の人なんですね。身なりが気になるんですね。

 あるにはるんですけど、まだベットから動くのは待って下さいね。手鏡を持ってきますから」

 朽草さんは出ていった。

 彼女はなんと言った?

 そうかやっぱりそうなのか?

 鏡なんか必要ない。

 覚悟を決めて俺は下着の下に手を潜り込ませ股間に手を当てた。

「ふう~」

 無い代わりに穴があった。

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