絶海の孤島

第463話 絶海の孤島

 海より登っていく太陽が空気を弛緩させていき歩きやすくなる砂浜。

 海より湧いてくる波の音が吸い込まれ一瞬の静寂が生まれては消えていく

 そこに砂浜に沈む音も混じり出す

 交互にリズミカルに

  鳥のような少女が波打ち際を歩いている。

 細い躰

  儚く手折れてしまいそう。

 ある者が見れば嗜虐力

  ある者が見れば保護欲が掻き立てられる。


 黒ブラウスにグレーのハイウエストサスペンダースカート。海辺では少し浮くが黒髪のおかっぱ少女にはよく似合っていた。

 東京より幾分太陽が高く、温められていく浜辺の朝は風が気持ちよく、少女は気持ちよさそうに散歩なのか一人歩いている。

 その少女の顔が何を見たのか曇った。

 砂浜に寄せては返す波、その波に洗われ砂浜に埋もれていく人影を見付けたからだ

 慌てて少女は駆け寄り、海水に服が濡れるのも気にせず埋もれかけていた顔を持ち上げ声を掛ける。

「大丈夫ですか」

 淡い蛍ような声ではあったが、精一杯声を出しているのは感じる。

 倒れていた人は声に応えうっすらと目を開けていく。

「・・・こっここは?」

「酉祕島です。

 しっかりして下さい。今引っ繰り返しますから」

 小学校高学年から中学生一年くらいの少女にとって水を吸った服を着た人間は重いのだろう、必死に力を込めても中々動かせない。

「もっともっと」

 少女の必死さは申し訳なくなるほどで、倒れていた人も自らひっくり返ろうと力を出し、二人の力が合わさって何とか仰向けに引っ繰り返った。

 男性用のスーツを着たグラマーな女性であった。Yシャツが胸元が膨らんだ分丈が短くなり臍が出ている。その全身に長い黒髪が纏わり付いてなんとも言えない妖艶さが醸し出されている。

「綺麗な人」

 少女ですら一瞬見穫れてしまった。

「君は?」

 今にも目を閉じてしまいそうながら女性は恩人の少女の名を尋ねる。

「私は朽草 みぞれ」

「綺麗な名だね」

 女性は呟くように言うと目を閉じてしまった。

「っととにかく直ぐに人を呼んできますから、待っていて下さい。

 絶対に待っていて下さいね。どっかに行っちゃ駄目ですよ」

 少女は必死に女にお願いすると脱兎の如く走り去って行き。

 少女の必死にお願いに応え女性は再び目を開けて走る去る少女の背中を見送ると、ゆっくりと目を瞑った。


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