第459話 選択と決断

 俺は俺だな。

 外側の世界だが俺は裏返っていない。

 理屈はもはや分からない。だが腹を割かれた金髪の女に廻が掲げる子宮から想像するに、俺は悪性腫瘍のように子宮から摘出されてしまったようだ。

「残念だけど。これを君の好きにされては困るな」

「そんな特殊妄癖に偏った概念を集めて変態ランドでも生み出すつもりか?」

 この場には廻一人で護衛はいない。

 この世界に連れてこれる部下がいなかったのか一人で十分という傲りか?

 廻からは敵である俺を前にした警戒心は全く感じない。

 完全に見下されている。故に慢心。

「まだまだだよ。この程度ではまだまだ望むに届かない」

「故に蠱毒か」

「流石見抜いていたかね。

 概念同士を潰し合わせ、より強烈な概念に進化させる。

 今まさにここでは天地創造神々の戦いが繰り広げられているのさ」

 廻は愛しそうに血塗れの子宮を見る。

 そんな大事なものを抱えて片手が使えない状態ではかなり体術には制限が掛かるはず。片手のハンデがあれば俺でも届くか?

「そうして新世界を生み出し仲良く移住か。

 そうなれば、めでたしめでたしだな」

 此奴らは罪を科しているが、新世界を創造して移住してくれればわざわざ追いかけて断罪しようとは思わない。

「そうだね」

「違うんだな」

 廻の肯定はあくまで俺の青写真が出来たらいいねの感想。

 分かっていたこと、此奴が新世界を創造して移住して満足出来るような奴ならシン世廻なんかを結成しない。

「僕は何も言わないよ」

「それを使って世界を裏返すつもりか?」

 あくまで自分が変わるので無く世界を変える。そのくらいの我なくして魔人などという優雅独尊の連中をまとめ上げることは出来ないだろう。

「やはり君は油断成らない」

 ちっ当てたのに嬉しくない結果だ。

「素直に新世界を創造して引き籠もれば円満解決なのにな」

「本当にそうだね」

 廻は心からそう思っているように言う。そう願ってもそれでは満足できない己ではどうにもならない性。

「妥協はしないさ」

 諦めるという妥協が出来ない大人に成れない子供なのだろう。得てして世界を変える偉人とはそういう人間でもある。

 悪いが廻を偉人にする気はない。

「だがそれにまだそこまでの力が無いこともそうだが、まだ足りないだろ。

 お前が伊邪那岐になるとして、伊邪那美と天沼矛はどうする気だ?」

「やはり君は怖いな、そこまで思い至るか。

 だが、それを教えるほどお人好しじゃ無いよ」

 西洋の神様なら一人で全てを産みだせるが、流石の廻もそこまでは到ってないということか。

 だとすると伊邪那美は誰になる。

 今までの行動を見れば容易に推測できる。

 時雨だ。

 ジャンヌやくせるなども候補かもしれない。

「格好付けるな。少なくとも伊邪那美には袖にされただけじゃないか」

「はっは、少なくとも君よりはモテるつもりだが」

「陽キャラは思い込みが過ぎるな」

 顔では勝負にならないとはいえ、流石に時雨も此奴よりは俺の方が好きだよな?

「陰キャがイキるよりマシだろ」

 廻は険のある声で言い返してくる。

 あの子宮もシン世廻の数多有るプロジェクトの一つに過ぎないのだろう。これを例え潰せても他の計画を進めていくだけ。

 確信したことは、ただ一つ。

 やはり此奴は生かしておけない。新世界とやらに逃げ込まないのなら確実に消さなければならない相手。

 選択と覚悟は決まった。

「ついでだ、天沼矛のことも教えろよ。

 答えが分からないと歯に食べかすが挟まったみたいに気になるじゃ無いか」

 この日のために切り札は用意して来た。万全では無いがそれを言い訳にしていたら永遠に先送りする人生になる。

「それは申し訳ないな。もう少し待てば披露して上げよう」

「それは無いな」

 いつかはいつも予期せず来る。

「どういう意味かな?」

「ここでお前は終わるからだよ」

 大事なのはその時に選択と決断が出来ること。

「あまり僕を怒らせない方がいいじゃ無いか?

 君はまだまだ面白い、僕としては見逃して上げてもいいんだよ」

 何より今日の俺は少々腹が立っている。

「相変わらず上から目線だな。

 自分が今日終わるとは考えないのか?

 想像力の欠如だな」

「増長しているのかな?」

「冷静な計算だよ」

 戦うことを決断し俺は廻に向かって行くのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る