第441話 憂鬱

 あれからもう一方の路線に乗ったり少し時間をズラしたりして電車に乗ったが魔に遭遇することはなかった。成果は仕事が夜だったので、昼間に教育実習を進められたのと遅れていた大学のレポートを進めることができたことである。

 そして今日は休日なこともあって昼間の内に被害者が乗ったと思われる二つの路線が交差する地点を見に来ていた。運んでくれたのは休日出勤をしてくれた草日さん。休日手当で二つ返事で了承してくれた。三目の部下にしておくのは勿体ない人だ。

「どうです?」

 草日が俺に問い掛けてくる。

 俺達は線路が交差するポイントを一望できるビルの屋上にいた。

 二路線は並行して進んだ後DNAの二重螺旋のように一旦離れた後に再び高架で交差している。その後は互いに離れてそれぞれの目的地へと進んでいく。

 高架での交差とか路線に挟まれた地などは如何にも雰囲気はある。近くで調べてみたいが、それには許可を取る必要がある。勝手に立ち入って電車を止めたら流石に大事になるからな。

「俺個人としては近くで調べてみたいな。くむはは何か感じるか?」

「この距離では」

「そうか」

 元々探知系は得意ではないとのことだったので落胆はない。やはり近くで調べてみる必要はありそうだな。仕方が無いあまり会いたくは無いが黒部に会って路線に入る許可を貰うか。電話で済まそうとしたら絶対臍を曲げるタイプだからな。俺なら会うより電話で済ませて貰った方が嬉しいだが。

 憂鬱な気分になったところでスマフォが鳴った。

 如月さんだ、嫌な予感がしつつ電話に出る・

『果無君。悪いニュースよ。四人目が出たわ。SNSでちらほら話題に出始めているわ。場所は沢所市下旧井○丁目踏切付近、急げば現場検証に立ち会えるわ』

「ありがとうございます。向かってみます」

 電話を切ってNETで検索すると祭り状態だった。

『第四の被害者か??? またまた北部電鉄で猟奇死体!!!』

『無能警察、新たなる被害者を防げず』

『呪われた路線北部電鉄。再開発で神社を壊したのが原因か?』

 これからを思うと憂鬱になるスレッドが並んでいる。

 捜査を始めてまだ一週間も経ってない、成果が出なくてもしょうが無い。現場を分かる人なら分かってくれるが、やり玉を上げる連中は責任回避の生け贄が欲しいだけのこと理解はない。ましてや俺に意趣返しをしたいなら絶好のチャンス。俺も対策を練っておかないといけないようだが、今は1分1秒を惜しんで他にやるべきことがある。

 すべきことは現場を見て感じること。丁度路線の調査に来ていたこともあって、場所は幸いここから遠くない。急げば現場検証に間に合いそうだな。

「草日さん予定変更だ。沢所市下旧井○丁目踏切まで急ぎで頼みます」

「了解です」

 俺達は急いで屋上から降りて現場に向かうのであった。


「マスコミとかのが集まっていて、これ以上車で進むのは難しそうですね」

 事件現場に近くなると事件を嗅ぎ付けた野次馬が集まったり警察が交通規制を行っている関係で車が詰まりだしている。

 場所はもう近い歩いた方が早いか。

「分かった。ここで降りるから、2人はどこか適当なところで待っていてくれ」

「了解です」

「待って下さい。私も行きます」

 草日さんは素直に了承したがくむはが案の定異を唱えてきた。

「見て気持ちのいいものじゃないぞ」

 信じて貰えないかも知れないが、裏は無く純粋に未成年への気遣いで言っている。

「私も旋律士です」

「行くなら用意しておけと言ったものは持ってきているか?」

「サングラスと帽子ですね」

 くむははサングラスと帽子を得意気に出す。昼間の現場に高校生丸出しの少女が入れば奇異もいいところ、絶対に写真を撮る馬鹿は出る。この商売顔が割れていいことは無い。

「ああ、この時代何処にカメラがあるか分からないからな」

 真面目子ちゃんが、これがユリなら絶対に忘れていただろう。

 これで俺がくむはを止める理由は無くなった。

「なら私も車をどこかに置いてお供しましょうか?」

「草日さんは、数日したら文部科学省に戻るんだ。見ない知らない方がいい」

 これも別に特殊案件処理課に手口を知られたくないという政治的判断より、純粋に見ない方がいいと思う人として思いやり。別に俺だって敢えて不幸な人を作り出したいとは思わない。どこで縁者から恨みを買うか分からないからな。知り合いは皆Happyにするに限る。

「分かりました」

 此方は俺の真心が通じてくれて草日さんは素直に引いてくれた。

「行くぞ」

「はい」

 俺とくむははサングラスと帽子を被り車から降りるのであった。


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