第437話 嫌な奴の二乗
「これからどうします?」
勝手にストーカーするはずだったくむはは護衛かパートナーかのように普通に予定を聞いてくる。
まあ俺として物陰から付けられて喜ぶ趣味はないのでこの流れに乗る。
「そうだな。少し待ってくれ電話をする」
本音ではもう帰りたいが、定時までは時間があるようだし鉄道会社の担当に連絡して明日くらいに会う予定を決めておくか。
事件の詳細については如月さんが現場を調べた警察や鉄道事故調査官から資料を取り寄せてまとめておいてくれた。流石如月さんで忙しいと愚痴りつつも分かり易くまとめてくれたので、事件の調査自体はこれで始められる。
魔事件確定となっときには対応をお願いするため会わなければならないが現状では其方の要請に従い動いてやったというアリバイ作りが主で取り立てて急ぎではない。
俺は如月さんに教えられた担当者に電話する。
『はい、北部電鉄の総務部渉外課の黒部です』
「初めまして公安所属の退魔官の果無と申します。今後「バラバラ死体の雨事件」は私が担当なることになりましたので一度会っておきたいのですが、いつ頃が都合がいいでしょうか?」
踏切に突然バラバラ死体が降ったことで週刊誌が付けた事件名だ。女性だけなら美人が付いただろうが男もいたのでこのタイトルになったようだ。
『やっと担当が決まったのですか。お役所はゆっくりできていいですね。
此方は今からでも大丈夫です。北部電鉄の東京本店にいらして下さい。話は通しておきます』
いきなり喧嘩を売られ呼びつけられたような気がするがこの程度気にしていては社会人はできない。
「いえいえ其方はお忙しいのでしょう、無理して会って頂かなくても後日お手隙の時で大丈夫ですよ。お役所はのんびりしてますからね」
『だから此方としてはこの事件解決が目下の最優先事項だよ。なんなら此方から伺いましょうか』
口調から滲み出る横柄さ。元々約束もなくたまたま今日連絡をしただけなのだから今日会わなければならない理由は無いはず。此方にプレッシャーを掛けて煽りたいだけなのだろう。断っても問題ないだろうが、世の中には人に嫌がらせすることに力を注ぐ人間もいる。下手に断ったら本当に来られる可能性もある。嫌がらせのためだけに公安まで来る度胸があるなら褒めてやりたいが、もし本当に来られて如月さんに迷惑を掛けるわけにはいかないか。いや意外と嬉々として仕事を振った復讐をするかもな。強面の警官をずらっと会議室に並べて威圧してやるとか。
無駄なことは辞めよう。俺は嫌がらせにそこまで情熱を注ぎ込めない。
「それには及びません。では其方に伺います」
『そこからなら一時間もあればこれますね。ではよろしくお願いします』
さらっと時間まで区切りやがった。ちっやっぱ呼びつけてやれば良かったか?
「北部電鉄に行くことになった」
「移動はタクシーですか?」
俺が電話を切って伝えるとくむはは付いてくる気満々で尋ねてくる。別に事件の調査じゃないんだから付いてくる必要は無いんだが、まじめな娘なんだな。
「いや、専属ドライバーがいる」
地下駐車場に行くと車内でタブレットを弄っていた草日は俺が車の傍に近付く前に気付いて車から降りて出迎えてくれる。
どうやって分かったんだとわざわざそこまでしなくてもいいのにという気持ちがミックスされる。
「お疲れ様です。この後は何処に向かいますか?」
「北部電鉄本店まで頼む」
「了解です。そちらの方は?」
俺の横にいるくむはに気付いた草日が尋ねてくる。
「旋律士の風音 くむはさんだ。今回の事件の担当して貰うことになった。
若いのに優秀な旋律士らしい」
隠すこと無く俺は紹介する。
「風音 くむはです。若輩者ですがよろしくお願いします」
「それは、私は文部科学省特殊案件処理課の草日と言います。此方こそよろしくお願いします」
くむはと草日は互いに折り目正しく一礼をし合う。生真面目な者同士似てるな。
「旋律士が出てくるということは早速仕事なのですね。てっきり今日は休むかと思ってましたが公僕として国民のために労を惜しまないその姿勢流石です。
私も少しでもお力になれるように尽力します。
では行きましょう」
草日は俺を尊敬の眼差しで見ると運転席に乗り込んでいく。
辞めてくれ国民のため何て欠片も思ってない背中がむずむずする。その勘違いを何かに利用できると思うような嫌な奴なんだよ俺は。
「文部科学省ともコネがあったのですね」
「その気なら紹介してやるぞ」
三目も退魔士とのコネを欲しがっていたし、特殊何件処理課の方で何かとめんどくさそうな風音家を引き取って貰っても一向に構わない。
「いえ二君には仕えません」
「そうか」
時代劇が好きな娘なのかな?
悪代官と越後屋の会合はさぞや見物だろうな。
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