第430話 果無罠に嵌まる

 うまくパラシュートを操作して俺はV字の崖を目指して降りていく。

  ゆらゆら

  ゆらゆら

 黄金の草原の上を通過していく。

 崖から落ちれば下は底の見えない霧の海。

 今なら下はふさふさの草原。

 それでも俺はパラシュートを離して地面に降りない。

 スーーーーーーーっと滑空してスコンと左右に分かれたV字の崖の間に落下していった。

 ゆらゆら

 ゆらゆら

 崖に沿って、ゆっくりだが確実に落ちていく。

 何も無ければスボンと霧の海。

 霧に呑まれて五里霧中、人生の彷徨い人になる。

 ゆらゆら

 ゆらゆら

 ゆっくりそれでいて後戻りできない。

 ゆで蛙になるかもしれない危険を孕みつつも俺は確信も持って崖を見ていると、ぽっかりと男を誘う込むような洞窟の入口が開いていた。

「誘われたら応じるが男ってもんだよね。

 ふんっ」

 俺は体を振って勢いを付けると同時にパラシュートを手放し、ヒューーーンと俺は洞窟の入口に飛び込んだ。

 むにゅ

 けっこうな勢いはあったが洞窟は優しく軟らかく向かい入れてくれる。

 どこも怪我すること無く洞窟に入れた俺は先を見る。

 洞窟内は仄かに明るく、ジメジメとした横穴が奥まで続いているようだ。

「ここまで来たら行くしか無い。

 逃げたら恥を搔かせる」

 俺は己を鼓舞するように声を出し洞窟に踏み込んでいく。

 ムニュムニュ。

 軟らかい地面の感触に癖になりそうになる。

 むにゅむにゅ

 靴を脱ぎ素足で感触を味わいたくなる誘惑に駆られるが、それは今は出来ない。

 だって

「チョッキンチョッキン、竿切りだ~」

 予想通り巨大なハサミを持った白兎がハサミをチョキチョキさせて待ち構えていた。

「さあ~竿寄越せ~」

 お前はアベサダかよ。

 躊躇いなく下半身を狙ってくる白兎を銃で応戦する。

「認めんやらん帰れッ」

 白兎は銃弾を全てハサミで弾き返し、間合いを詰めるとクワッとハサミを開き下半身に突き入れてくる。

「冗談」

 ガキンとハサミが閉じられた一瞬本能的危機回避で腰を引いて辛うじて躱せた。だが上半身が不自然に前に突き出た体勢。次の攻撃を躱せるとは思えない。だが俺はこの体勢で前に突き出た腕、片手に銃片手に仕込み銃、から惜しみなく全弾白兎に打ち込む。

 バンッバンッバン。

「温いッ」

 白兎に当たった銃弾が白いふわふわした毛で受け止めらた瞬間、白兎は体をくるくる回転させ水を払うように銃弾を払ってしまった。

「ちきしょうが」

 取り敢えずその隙は俺は大きく間合いを取る。

「温い、温すぎて卓袱台返し」

 白兎が地面をバンッと踏み込むと俺がいる地面が捲れ上がっていく。

「うっうっうわーーーーーーーーーーー」

 上に上がっていく。このまま捲り上がっていけば、やがて俺は重力に抗えなくなり白兎の方に落ちていくだろう。そして今度こそチョッキンッパされる。

 ならば此方も切り札を出す。

 いつだって赤ずきんちゃんを食べるのは狼って決まっている。

「猛れ、荒ぶれ、欲望をそそり立たせろ」

 俺の体中の筋肉が膨れ上がっていき服をぶち破る。

 手には鋭い爪、口からは鋭い牙が生え、猛々しい体毛が体を覆っていく。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん」

 俺は天に雄叫びを上げて、捲れ上がっていく地面を自ら駆け下り白兎に突撃する。

「笑止。何処の馬の骨とも分からない奴にお嬢様をやれるかっ」

「娘は狼に奪われるのが世の摂理だぜ」

 俺の全力で放った拳が白兎のハサミを砕き白兎をぶっ飛ばす。

「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ」 

 白兎はそのまま散った。

 洞窟は痛みに耐えかねるように俺を追い出そうと蠕動するが、俺は構うものかと猛るままに奥に奥に猛進して突進。

 進む先はすぼんでいたが俺は恐れることなく穴に飛び込んだ。

 すぽんと閊えること無くすぼんだ入口を潜り抜けると、球体の部屋の中央でエシラが裸で丸まって浮いていた。

 俺は迷うこと無くエシラとリンクするのであった。


 おぎゃああああああああああああああああああああああああああ


 生命の息吹が世界に轟く


 そこはホテルのパーティー会場。

『おめでとう』

 ソフィアが目に涙を浮かべた笑顔で拍手をする。

『おめでとうございます』

 大原が笑顔で祝福する。

『うぅうぅおめでたい』

 全身傷だらけの老紳士が涙を流して声を絞り出す。

『『『おめでとう~』』』

 島村達が笑顔の合唱。

『男の責任だな』

 影狩がどこか哀れむような笑顔で言う。

「「「おめでとう」」」

 パチパチパチパチパチーーーーーーーー

  パチパチパチパチパチーーーーーーーー

   パチパチパチパチパチーーーーーーーー

 最後に俺はみんなに囲まれ祝福の言葉と万雷の拍手に包また。

 ソフィア、大原、影狩、ホテルの従業員達、島村達を掻き分け純白のおくるみに包まれたエシラが前に出てくる。

『よろしくね』

 エシラが笑顔で言うのであった。

「詐欺だろ」

 俺は自然と呟いているのであった。

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