第429話 魔法の言葉
「さて、俺は早く帰ってやりたいことが色々と出来た。
お嬢様のお相手は今日限りでお暇させて頂こう」
俺は先程の失態もあり周囲を警戒しつつ美術館を出る。今のところ尾行されている気配は感じない。だが油断は出来ない。このホテルにどれだけ殺し屋が潜り込んでいるのか、もしかしたら俺達以外の客は全て殺し屋なのかもしれない。
美術館を出た俺は階段に向かい上下どちらにしようかなで上の階に出る。
上階は美術館もレストランも無い宿泊用の部屋があるだけのフロア。通路には誰にもいないし、気配も感じない。
ならばと今のうちにと真っ直ぐエレベーターに向かう。エレベーターの前まで来ると上のボタンを押し呼び出す。来る前に誰かが来たら適当な階で降りてやり直しだが、誰かが来る前にエレベーターは到着し扉が開く。そして中には誰も乗っていなかった。
誰かがいたら、先に降りてくれるのを祈り、降りなければやり直し。2~3回はトライするだろうと思っていたが、珍しいこともあるもんだとエレベーターに乗り込み扉の閉ボタンを押すと扉が閉まりきる前の隙間を影のように何かがすっと抜けて来た。
「変なマネはするな。できれば引き金を引きたくない」
振り向く間もなく俺の背後を取った何者かは俺の背に銃口らしきものを突き付ける。前を見ている俺には分からない。ブラフということもあるが、確かめるには勇気がいる。
まあ此奴も殺し屋なんだろうな。
あれだけ警戒していたのに気配を感じることすらできなかった、少なくとも俺を上回る手練、まともに戦って勝てる相手ではないだろう。
「俺は忙しいんだ何の用だ?」
奇襲のチャンスを自ら棒に振ったんだ何か俺に用があるんだろう。
「お前ターゲットの場所を掴んだだろ教えろ」
男の声を無理に作っている感じがある。女か?
「ハイエナ行為は感心しないな」
「黙れ。死にたくなければ、さっさと言え」
気が短いお嬢さんのようで、銃口で俺の背中をぐりぐりしてくる。
「言ってもいいが、その前に俺の方でもハッキリさせておきたいことがあるんだが?」
「これ以上私を苛つかせると排除するぞ」
「お前は殺しに来た方か? 確保しに来た方か?」
「それがお前になんの関係がある」
「もしかしたら同じ雇い主かもしれないだろ」
背中で隠しつつ俺はエレベーターの物理的ボタンが並んでいるパネルに指を付けるとスマフォのようにひゅんと上にスライドさせた。するとパネルは上にひゅんとスライドして地下一階二階のボタンが現れる。
「そういうことか。たしかに複数雇ったようだが私に協力する気はない。私は私の邪魔をするものは容赦なく排除する。
これが最後だ、これ以上私を苛立たせるなら排除する。
ターゲットはどこだ?」
「なら遠慮なく」
馬堀のようにエシラを保護にしに来ただけの奴だったら、少し心が痛むが。まあこちらを殺そうとしているやつならいいだろ。
地下二階のボタンと閉まるボタンを同時に押す。
エレベーターの床がパカッと開いた。
そして俺と殺し屋は当然重力に従いぴゅーーーーーーーーーーーーーと二人落ちていく。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
叫び声を上げる殺し屋は予想通り女、二十代前後といった若く体つきもまだ少女から脱皮していない華奢な感じ。
まっ可愛そうだが。もうどうしようもないと気にしない。
「どんなときにでも慌てない、それが紳士。そしてハンカチは紳士の嗜み」
ポケットからハンカチを取り出すと、パッと広げパラシュート。
ゆらゆら
ゆらゆら
落ちていく。
殺し屋はうわあーーーーーっという間に落ちていく。
ゆらゆら
ゆらゆら。
落ちていく先キラリと光る剣山が待ち構える。
今回はゆっくりとだから安心と思えば、待てに焦れた犬のように鉄の杭が俺に向かって一斉に伸びてきた。
「落ち着きのないレディーは品がないぜ」
紳士は慌てない落ち着いて魔法の言葉を放つ。
「カードで」
俺が懐からブラックカードを出すと、鉄の杭は髪のようにふにゃっとなり地下一階の床が左右に開かれていく。
流石どんな女性の心も蕩けさせる現代の魔法の呪文。
ゆらゆら落ちていき開かれた入口を通ると、そこは昨夜冒険をしたワンダーランド。
霧の上に浮かぶ大地。
双丘の向こう側には泉があり水が湧き出し川が霧の海に流れていく。
双丘のこっち側には窪地、そして金色の草原の後にV字の崖があり左右に道が分かれていく。
昨日は良くわからなかったが上からゆっくり見えることでよく分かる。
お嬢様の居場所はもう分かったようなの。
俺はハンカチをコントロールして落下地点の操作を始めた。
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