第420話 ご苦労様
ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ、死の風を巻き上げてエレベーターが1mmギリギリ横を通過していく。
エレベーターの釣り合い重りの横に僅かに空いたスペース。その保護用のガードが等間隔に並んでいたので梯子に見えたが、本来はこういう風に昇降に使う物じゃないんだろうな。いやメンテナンス時にそういった用途で使う意図はあったかも知れないが、最低でもエレベーターは止めておくんだろうな。
朝早いとはいえ俺のように起き出す者はいる。
通り過ぎてくエレベーターに僅かでも服が引っかかれば俺はあっという間に引きずられ挽肉になる。通り過ぎる瞬間俺は出来るだけ身を縮めてやり過ごす。
「・・・30,31,32」
俺は無心に念じるように降りた段数を数えながら降りていく。そして時々止まってライトを回して扉や他に何変わったものが無いか確認する。
心を殺し機械的に作業をしている内に扉の数え間違いでなければ一階に辿り着いた。
俺は梯子の段数と扉を数えていた。扉の数え間違いがなければここは一階のはず。ホテルの案内図に地下はなかった。だが奈落の底のような穴はさらに下に続いている。
まあ、地下が合っても客の立ち入りを禁じていることはよくあることだ。だがここから下は従業員しか入れない区画ということでもある。
まさか俺が屋上から地下への侵入を試みるとは思うまい。完全に虚を突いているはず。
果敢に攻めるときと更に降りていくと地下一階分くらい降りたところで底に付いた。
ライトで上を照らすと光が届かない遙か上にエレベーターはあるらしい。調べるなら今のうちか。
トンッと梯子から手を離しコンクリート打ちっぱなしの床に降り立つ。そして中央に歩いて行く。
スペース的にはサッカーができるほどの広いスペースはない上から長方形に切り立った壁が続いていて、地下一階で急に広がっていたりしない。
床には落下時の安全用の緩衝器が五つほど設置されていて、緩衝器より少し高いところにエレベーター用の扉が見える。
ごく普通のエレベーター通路内の光景だ。
昨夜見た光景はこれを見立てたのか?
バネ式の緩衝器ので上に突き出た形状は、まあ剣山に見立てられなくもないか。
緩衝器の隅の一機には調べると拭き取れず残った赤黒くなった血の跡がある。昨夜見た串刺しの遺体はここに在ったようだ。まあ流石に腐臭が漂う前には片づけたようだ。ホテルとして衛生に気を付けるのは当たり前か。
そうなるとここが昨夜俺の足に穴を開けてくれたのはこの場所で合っているようだな。
あの扉を開ければ、サッカーが出来るようなスペースがあるのか? 俺は扉に近付いていく。内から力尽くで開けられるだろうか?
扉に手を掛けたところで思い出した。
俺は足を串刺しにされた後下に降りていったはず。今回の魔は不思議の世界を作り上げるようだが元の世界にあるものを見立てた上で行っているはず。
ならこの下がまだある?
勿論今回の魔を完全に理解したわけじゃない。見当外れの推測で無から作り上げた可能性もある。現に今までそういった魔もいた。
振り返ってもう一度隅から調べ直す。
推測が合っているとすれば、何かしらの物理的トリックがあるはず。壁や床などを叩くが中が空洞のような反響音は聞こえない。
隠しスイッチも見つからない。
緩衝器のバネを押してみたが俺程度の力ではビクともしない。引いても押してもスライドさせようとしてもビクともしない。
調査を気が済むまで続け、ギミックはないと結論づけた。
これで心置きなく先に進めると再びドアに手を掛ける。俺の力で開けられるか? 開けられなければすごすごとまた梯子を登って戻らなければならない。
そういった杞憂が消えるようにドアは少しづつスライドしていく。やがて人が通れるほど空いたので通り抜ける。
さあ、どんな世界が広がっている?
期待する俺の目にはずらりと並ぶ機械が映った。
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