第418話 夢の終わり

 天国に拒否され堕ちていく

 天使に拒否され墜ちていく

 隕石の如き加速度で摩擦熱で灼熱させながら墜ちていく

 地獄の炎で炙られる如き苦痛

 これも犯した罪の報い

 俺の罪はエデンの破壊

 だから地獄に落ちろと天使が言う

 ここはお前にふさわしくない地獄に帰れ悪魔と天使が言う

 悪魔、悪魔か

 俺は楽園を破壊し島村達に知性を呼び戻した

 それは語られる悪魔王の大罪二つ

 天界の反乱と人間を唆し知恵の実を食べさせたことと似ている

 ならば俺は悪魔どころか悪魔王

 ドクンと鼓動が跳ねた

 悪魔王

 悪魔王は天に反逆する

 

 乙女の肌を引き裂き

 乙女の肌を食い破る

 鋭き爪と牙が生え

 乙女を押さえつける筋肉が躍動し

 悪魔の翼が生える

「ガハッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 翼を羽ばたかせ反転、雲を突き抜ける。

 驚愕で見上げる天使達

 獲物を見下ろす俺

 つるつるの肌が瑞瑞しく

 どれも上手そうだ

 犯しながら貪るか

 貪りながら犯すか

 獲物を見定め俺は急降下

 逃げる乙女を一蹴し捕らえる

 さあ、この猛り狂う逸物で刺し貫いてやろう

 首を掴まれ釣り上げられる乙女の目に涙が浮かぶ

 がはははは

 弱者の涙は猛りのスパイス

 捕らえた島村の股を開き刺し貫こうとする瞬間 

 目が合った

 その怯え切った瞳に


 かつて人はエデンに住んでいたという

 そこでは老いもなく病気もない

 悪意もなく

 人は獣同様裸で彷徨き

 飯を喰らい糞尿を垂れていた

 純真無垢といえば聞こえはいいが

 神のペットか人形に過ぎない

 そこを悪魔に唆され悪意を植え付けられ

 エデンから追放された

 だが同時に人間は神に挑む権利を得たのだ

 俺は人間を唆す悪魔か神に挑む人間か?


「ん」

 俺の一瞬の迷いを突いて炎の円盤が襲いかかってきた。

「ちっ」

 円盤は剣を車輪のスポークのように並べられたもので炎を纏っていて受け止めた手のひらが焼かれ切られ、少し痛い。

 そしてその一瞬で島村はいなくなっていた。

「とんでもない化け物が生まれたな。お嬢様はこれを利用しようというのか」

 島村は天使になったソフィアに抱かれていた。あの攻撃に気を取られた一瞬で奪ったようだ。

「今度は天使か。コスプレ女、いい年して恥ずかしくないのか」

 ぐふふふ、ゆったりとしたヒマティオンから覗く太ももや肩に唆られる。俺の一物はますます猛り狂い膨張していく。

 はあはあ、早くこれで女を貫いて欲望を吐き出したい。

 あの服を破り捨て逃げられないように手足を折って刺し貫きたい。

「ここに入るにはこうするしかないんだよ」

 俺の一物に嫌悪感顕にしながらソフィアは島村を置き剣を構える。

「ちょうどいい、お前も犯して堕落の海に沈めてやろう」

 違う。こんなのは俺じゃない。

 滾る欲望のままに女を襲い犯すなんて、それこそ知性が宿る前のエデンの猿と同じじゃないか。

 俺は人間だ。

 俺は悪意という知性を宿し神に挑む人間。

 いや違う。

「俺は俺だーっ」

 俺の叫びにコケコッコーーーーーーーーーーー、子供に夢の時間の終わりを告げる鶏の一声が重なり、朝日が夢を晴らしていく。

 天界の雲は霧散しリアルなホテルの屋上が顕れる。

 ソフィア達は夢だったのか俺が迷った一瞬のうちに逃げたのか姿は消えていた。

 そして俺ももとの平凡な姿に戻っていた。

「くそっ」

 夢の世界の醜態に恥ずかしくなる。記憶から消したい。それこそ飯樋に頼んで消してもらうか。

 だが俺にここまで恥をかかせてくれたんだ。勝負に勝たなければ気がすまない。

 すべてを暴いてやるぜ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る