第403話 絶妙のタイミング

 俺の体が性の快楽で血が沸騰し鼓動がバクバクする。このままなら精液どころか全身の毛穴から血を射精して逝きそうだ。

 それでも出したい誘惑に逆らえない。

「さあ、答えを聞かせて」

「・・・」

 天夢華の死の宣告に俺が答える前に銀の軌跡が走り、銀の閃光がそれを弾いた。

「天夢華様、大丈夫か」

 天夢華の背に松本とか言う長刀を持った少女が立っていた。そして松本の足下には弾かれたナイフが刺さっていた。

「意外と遅かったわね。私のことなんか忘れ去ったかと思ったわ」

「でもちゃんと間に合っただろ」

「私に助けて貰っておいて良く言うわ」

 どうやら大樹の主導権を飯樋から奪った天夢華は捕らえられた仲間を解放するように命じたらしいな。それでも全員が一斉に解放されないところを見ると、俺や天夢華みたいに大樹に抵抗できる我の強さを持ってないと駄目らしいな。尤も時間を掛ければ全員解放される可能性は高い。

「それを言われると痛いな。

 確かに護衛なのに守られたんじゃ格好が付かないな。この失態これからの働きで挽回させて貰うとするよ」

「期待するわよ」

 天夢華は松本に背中からゆっくりと手を回して抱きつく。

「これはご褒美を期待してもいいのかな」

「もちろん働き次第よ」

 ご褒美とは女の子らしくケーキとかでは無いんだろうな。だとするとこの女は天夢華に逝かせて貰って尚生きていることになる。

 何が違う?

 天夢華は松本から離れ松本の向こう側に視線を向ける。

「久しぶりね、涼月。相変わらず綺麗ね」

「あなたも変わらないわね。だからこそあなたは私が討つ」

 親しげに話し掛ける天夢華の暖かい声を冷やすような表情の涼月。

 涼月は白銀のレオタードを着込み、肩からはナイフホルスター、腰にはベルトを巻いて帯剣していた。

 いつもの寸鉄帯びないたおやかな姿からは違和感を覚える出で立ちである。

 山に入る前に契約に従い涼月に連絡をしておいたのだが、このタイミングは絶妙過ぎる。

 もう少し早ければこんな苦労をしなくて済んだし、もう少し遅ければ俺は最高の快楽を味わえていた。

 苦労をしてお預けとは報われなさ過ぎる。

「怖いわね。あんなに愛し合った私を殺すなんて。でもそれでこそ私の愛した涼月のままの証ね。

 変わらず愛しているわ」

 愛し合った? 涼月も松本のように天夢華と逝かされ生きていることになる。

 男は逝かされ逝くだけらしいのに、女2人は天夢華に逝かされ生きているだけで無く、魔人となっている。

 もしや天夢華に愛されて逝くことが魔人になる為の条件なのか?

 だとすれば無尽蔵に魔人を量産出来ると思われた天夢華だがそんなこともないのかもしれない。男は逝かせるだけで嫌っているようだし、女にしても天夢華はあの様子じゃ相当選り好みするだろう。

 意外と危険度は低い?

「私もあなたを愛しているわ」

「その上あなたを目覚めさせて力まで与えたのも私。ねえ、だったら帰ってこない」

「私があなたを愛して目覚めたのは魔の力じゃ無いわ、生き様よ。その生き様を穢さない為にもあなたを倒す」

 理不尽に涙を流した女の無念を晴らす。

 つまり天夢華は女を泣かしたということか。天夢華が単純に女に暴力を振るうとは考えられない。だとしたら天夢華と愛し合って逝かされた女全てが目覚めるわけでは無いということなのか? 男同様に知らない方がいい末路を辿った女がいるということか。

 益々持って危険度は低くなったな。

 天夢華は涼月に拒絶されて悲しそうな顔をするどころか嬉々と微笑んだ。

「それでこそ私の愛した涼月よ。

 でもどうするの?

 あなたの魔は男に踏みにじられた女が流した涙。私には効かないわよ」

「生き様を貫くのに魔の力が必要じゃ無いわ、意思」

 涼月はレイピアを抜き放った。

 なるほど涼月は最初から魔の力で無く物理で決着を付ける気だったのか。

「怖いわね。ゾクゾクしてくる、感覚が研ぎ澄まされる。

 ながか」

「はいよ」

 ながかと呼ばれた松本は長刀を振りかざし涼月に向かって行く。それを見届けると天夢華は俺に向き直る。

「これ以上あなたに構っている余裕は無いようね。御免なさいね。出来るだけ最高の快楽に近付くようにしてあげるから、思い残すこと無く逝ってね」

 ぷにゅっと天夢華の指が俺の眉間に挿入された。

「ぐごっ」

 くちゅくちゅと天夢華の細くて白い指が抽挿され脳が煽動する。

「あっあっあっ」

 ビクビクンと陸に上がった魚のように痙攣して奇声を発する。

 思考と記憶がモザイクのようになり理性が消え快楽だけが広がっていく。

「さあ,逝きなさい」

 天夢華の言葉と共に指がずぼっと一際奥まで差し込まれると太鼓の如く鼓動が鳴り響いた。そして指が引き抜かれると鼓動が打つごとに大きくなっていく。どくんどんからどっくんどっくんと鼓動は高まり快楽が全身を駆け巡る。

 このまま俺は心臓が極限まで広がり全身から体液を噴き出す絶頂の快楽と共に俺は逝くのだろう。

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