第402話 悪魔は嘘をつかない
「あら、抱きついてくるなんてまだ主導権を得られると思ってるのかしら?」
トントンたん。
背中に廻された天夢華の指が名曲を奏でるように俺のツボを押していき、リズミカルに快楽が俺の体を駆け巡り高まっていく。
「あっあつい」
「まだまだ高めてあげる」
体が燃えるように熱くなっていき俺の股間はかつて経験したことがないほどに膨張していく。
暴走するエンジンのように体の内から上昇していく圧ではち切れ爆発しそうだ。今すぐ爆発しなければ気が狂いそうなほどに脳が茹で上がる。
「出したいの?」
天夢華は俺の今にもいきそうな股間を快楽を与えるも決して暴発させない絶妙な力加減で撫でる。
「はい」
俺は初めて味わう快楽にもう抗えない。
「ふふっ素直で可愛いわね。
なら跪いてお願いしなさい」
俺は躊躇いなく跪き天夢華を見上げてお願いする。
「天夢華様、どうか私に真の喜びを与えて下さい。そして神から解放して下さい」
「可愛い子犬さんね。ご褒美よ」
天夢華は優しく俺の両頬を撫でてくれる。それだけで夢心地だ。
「ありがとうございます」
「あなたという存在を最後の一滴まで搾り取って解放してあげる」
天夢華は俺を押し倒し、俺も逆らわない。
俺の上に乗った天夢華の指はまるで陰茎のように俺の体のツボに挿入されていき抽挿を始めると、俺は女の子になったようにビクンびくんと体が痙攣する。
体の中に宇宙が生まれ無限に快楽が広がり渦巻いていく。渦巻き高まり一点に修練されていく。この快楽が何処まで高まるのか予想は付かない。終わりの見えない高まりに俺は息苦しく悶え気が狂いそうになる。
「はあ、はあ、天夢華様苦しいです。楽になりたいです」
「まだ駄目よ」
「でもこれ以上我慢出来ない」
我慢すればするほどあの一瞬が高まるのは分かるが果てたい誘惑も抗いがたく高まっていく。
「我慢しなさい。
まだまだ高みに登れるわ。約束通り天にも届く解放を味合わせてあげる。
その為にも、次はあなたという型から解放されるのよ」
「型?」
「そうよ。あなたをあなたたらしめるもの。それこそ解放を阻害する神の拘束具」
優しく囁いて俺の目を見る天夢華。
「まずはあなたを外側から形作る社会を切り捨てて貰おうかしら」
「社会を切り捨てる? 一体何をすれば」
「そうね。あなたの上司を始末なさい」
「上司をですか」
「そうよ。それであなたは二度と社会に戻れないわ。どんなに言い分けしても社会はあなたを信用しない」
いいように利用されたとも言えるがこの世界に飛び込んだ俺の世話をしてくれた如月さん。クソが多いこの世界で中々恵まれた上司と言ってもいい。そんな人を裏切れば、確かに俺はもう今まで所属してきた社会には戻れないだろう。
帰属出来ないということは今まで社会に帰属する為に身に付けてきた学歴・身嗜み・礼儀・社会常識から解放される。こんな俺でも社会で生きる為にそれらを覚え身に付け、従えさせられていた。
確かに俺を型取る拘束具だ。
「でもそれだけじゃ足りない。外から型に押しつけるものを無くしても内からあなたを型取るものある。
あなたが一番固執するものは何かしら?」
ぐっと天夢華は俺の瞳を覗き込んでくる。
「恋い焦がれる女がいるのね。
思ったより純情なのね。あなたが残す現世への最後の未練は女。
ならその女を私に差し出しなさい。あなたの目の前でその女を私が抱いて解放して上げる」
快楽の為に惚れた女を差し出し、惚れた女が目の前で快楽に溺れて墜ちていくのを見せ付けられる。その姿に所詮女は快楽の為の肉袋と悟れば二度と女を好きになることなどなくなるだろう。
全ての女が快楽の対象に過ぎなくなり、一番不可解で厄介な人としての執着が無くなる。
外からも内からも今の俺を型取るものが無くなれば、俺はかつて無いほどに解放され自由になれるだろうな。
「そこまですればあなたを抱けるのですか?」
終局が快楽の象徴天夢華を抱いて快楽の極を知る。
「真の解放を体験させてあげるわ。
全てのしがらみから解放されてあなたは逝くのよ」
「あなたは抱けないということですか」
天夢華は絶妙にだが俺の質問に「はい」と答えなかった。脳が茹だっていてもそういった細かいことがまだ気になってしまう。
「小賢しいのね。
そうその通りよ。汚らしい男なんてご免よ」
天夢華の此方を見下す目は冷たかった。
「穢らわしい男如きが私に快楽を与えようなんて思い上がりが過ぎるわ」
確かにSexは互いに快楽を与え合い高めていくという意味合いが強い。まあマスターベーションと変わらない、ただ己のみが快楽を貪る奴も多々居るが。
天夢華は俺というより男という生物から与えられる快楽を拒絶しているようだ。
「騙したのですか」
「嘘は言ってないわ。あなたが真の解放を味わえるのも本当。
あなたは何も考えず何もせず私が与える一方的な快楽で逝けばいいのよ」
「全てをあなたに捧げるというのに、快楽の極みを味わえないということですか?」
「私は抱かせないけど約束通り快楽の極みは味合わせてあげるわよ」
「やはり詭弁で誤魔化すつもりか」
抱きたい俺と抱かせない天夢華、天夢華を抱くことが極みの快楽の俺と一方的に天夢華から与えられるのが極みの快楽という天夢華、会話は平行線。
「なら辞めてもいいのよ。でもね、あなたは私に弄られたことで他の女に対しての感度は酷く鈍感になってこの先どんな女を抱こうとも快楽を味わえることは無いわ。
味わうのは果てしない乾きのみ。
逆に私に対する感度は数十倍から数百倍、男では味わえない快楽を一方的に味わうことができるのよ」
「このままの状態が一生続くというのか?」
天夢華が言うことが本当なら、マスターベーションをしようが女を買おうが達すること無い、死ぬまで脳が煮立つ寸止めを味わい続ける男の地獄。
「そうよ。
この先に待っている永遠の乾きにあなたは耐えられるかしら?
今まで三日と耐えた男はいないわ。最後には私に全てを差し出して快楽と共に昇天して逝ったわ」
この女を前にした男は蟷螂になる。
男は自分の命すら差し出すことが分かっていても、超新星のような快楽の誘惑に屈してしまう。
「じゃあそろそろ答えを聞かせてくれるかしら。
どうするの?」
偽りの答えは出来ない。
ハイと答えた瞬間自分の中では如月さんも時雨も天夢華に差し出した事実が確定し、後は実行するだけになる。
時雨も所詮抱けもしない女。そんな女を永遠に追い求めるか一瞬だが超新星のような快楽を取るか?
「その前に最後に質問させてくれ」
そろそろ理性も溶けてしまいそうだが、最後の気力で口を動かす。
「いいわよ」
「あなたが与えてくれる極みの快楽を味わって尚未練が残ったら、あなたを抱かせて貰えるのか?」
極みの快楽を味わって未練が残ったら、それは偽りの極みの快楽。契約違反となる。そんなことが起きるなんて天夢華は絶対に認めないだろう。
「ふ~ん、いいわよ。小賢しく悟るよりそういうのは好きよ。
快楽の昇天を味わって生きていたら抱かせてあげるわ」
予想通り天夢華は悩むこと無く明言した。これで逝かなければ約束通り天夢華を抱けることは確定した。
なぜなら悪魔は騙すが嘘をつかない。天夢華が悪魔の女ならばこそ信用出来る。
なら答えは決まっている。
新たなる扉を開き俺は次のステージに進む。
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