第386話 生き残る為

 ホームの両脇に電車が向かってくるようなものだった。

 左右どちらにも逃げ道は無く俺は真ん中に立ち尽くすのみ。

 右を向けば伸びていく乳房が残像を残して通り過ぎていき。

 左を向けば乳房による白い柔肌の壁が出来ていた。

 そして両乳は俺に逃げる間を与えずに膨らみ俺を挟み込んだ。

「ぐほっ」

 咄嗟にジャンプして辛うじて頭だけは挟まれるのを防いだが体は柔らかく拘束されてしまう。

「くそっ」

 無駄だと思いつつも乳を撥ね除けようと手で押せば、むにゅっと柔らかく暖かく肌に馴染む感触と共に手がめり込んでいき、めり込んだ分だけ俺の体は乳に包まれ覆われ密着されていく。

 顔を出せてなかったら窒息していたな、パイズリで窒息死とは時雨には知られたくないな死因だな。泣いて貰えるどころか軽蔑されること間違いなし。それだけは避けたいと思うが柔肌の壁が煽動を始めた。

 むにゅむにゅとマッサージチェアで全身を揉むかのように体の凝りがほぐれていく。

 このままなら一寝して疲れが取れそうだ。

「どう、せんせ~い、わたしのぱいずりきもちいい~」

 乳に遮られ顔が見えない中塚の楽しそうな声に合わせて左右のおっぱいから圧力が強まった。

「さあっさあ、ぴゅっぴゅとだしていいのよ。きたないはなびをうちあげなさい」

 おっぱいは煽動して俺の体は下から上に圧迫されていき、また下から上に圧迫されるを繰り返され俺の体はあそこのようにしごかれる。

 骨が軋み内臓が圧迫され上に上がっていく。

「うぷっ」

 何か込み上げてくるがグッと力を入れて呑み込む。力を抜いたが最後ゲロならまだいいが内臓やら心臓やら出してはいけないものが飛び出してしまいそうだ。

 何か打開策はと周りを観察し耳を澄ませば今まで気が付かなかった声が聞こえてくる。

「こんちきしょう、なんだよこれ」

「重い重い、助けて」

「頑張って先生が助けてあげる」

 何が起きているが見えないが、声からするに白前達も巻き添えを喰らって乳に挟まれこそしないが潰されたりしているようだ。

 鮎京や白前が俺の期待を裏切り助けてくるなんて展開は予想通りないようだ。ならせめて利用させて貰おう。

 内臓をグッと一度下に落として声を出す。

「中塚だったか、お友達を巻き込んでいるようだがいいのか?」

 これで僅かでもいい戸惑ってくれれば隙が生まれるはず。

「薄汚い男なんかに媚びを売るような女は消えればいいんだわ」

 戸惑うどころか先程までの何処か甘ったるい口調から堅い意思を示すような堅く重い声が響いてくる。

 本気で男を嫌悪しているようだな。

「ちょっとまって、私は媚びなんか売ってない」

 どこからか飯村の声が聞こえてくる。

 確かに俺に敵意満々だったし、媚びを売っていると誤解されるのは不本意だろう。

「五月蠅いわね。あなたの正論は聞き飽きたわ」

 見逃して貰えるどころか飯村は自身が嫌われていたようでとばっちりの憎しみからか乳房の圧が増した。

「ぎゃああああああああああああ」

 どうなっているか分からないが飯村は悲鳴を上げる。

「ああ、五月蠅いわね。こんなとこからさっさと帰りたいわ。

 あなた、もう逝きなさい」

 お遊びは終わりとばかりに圧力が一機に増し骨が砕けそうだ。ヒビくらいは既に入っているかもな。

 だがどうする?

 武器を取り出そうにも腕は乳房にめり込んでしまって動かせない。少女の瑞瑞しい肌は餅のように肌に張り付いて抜き取れない。

 動かせるのは口だけ。辛うじて呼吸が出来るのみ。

 ・

 ・

 ・

 万事休すで脳裏には、美しい時雨の舞が浮かんでくる。

 もう一度見たい。

 その為に俺は嫌な奴にだって成った。

 俺は別にヒーローになりたいわけじゃない。

「取引しよう。何が目的だ?」

 俺は何をしても生き残りたい、生き残る。

「もくてき~、あはっはそんなの簡単よ。

 汚い男を潰したいだけ」

 俺にはよく分かる憎しみが籠もった声だった。

「それでもだ。俺を狙った目的があるはずだ、誰に頼まれた?」

「男を潰すのに理由は入らないわ」

 半分本心なのだろう、魔に墜ちて己の願望が顕現したんだ命令が無くてもこの少女は通り魔の如く男を潰していくだろう。

 それでもだ。俺を特定して狙った以上命じた黒幕がいるはずなんだが、中々に口が堅い。

 黒幕の線から取引材料を探る道は消えたようだが俺は諦めない。

 口しか動かせないなら口を動かすまで。

「男を潰したいというが、ならなんで女の大村を消したんだ?」

「えっ!?!」

 乳の煽動が止まった。飯村達を潰すことには米粒ほども動揺しなかった中塚が揺れた。

「図星だったようだな」

「ちっ違うわ。私は正々堂々戦った。そして天夢華様の愛を勝ちとったのよ」

 先程までのつけ込む隙の無い堅い冷たい声じゃない、錯乱した声が聞こえてくる。

 大村の失踪に関係無くても同じ部活ならそれなりに付き合いがあっただろうから、うまくいけば一気に溢れる思い出に多少は混乱してくれるかもとの賭けだったが、思った以上のビンゴだ。

 思い出を忘れていただけで無く失踪に関係していたか。溜まった罪の意識に潰れろ、潰れてまえ。

 期待を待つだけじゃない積極的に言葉で心を剔ってやる。

「本当か? 人知れずこうやって消したんじゃ無いのか。お前が勝ちとった愛は薄汚れている」

 大事な人らしい天夢華との関係だって穢してやる。愛が深いほど剔れる。

「違う違う違う。私はそんな事してない。天夢華様が私を選んだよ。そうしたらあの女が勝手にいなくなっただけよ。

 私は関係無いーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 絶叫が物語る。真相は知らないが大村の失踪にかなり罪の意識を感じていたようだな。

 喚く中塚におっぱいの圧力が緩み萎んだ。乳が萎んでいきその先に繋がる中塚が見えた。

 自由になった腕で懐から銃を抜き、中塚目掛けて引き金を引く。

 パンッ

 パンッ

 パンッ

 乾いた炸裂音が三つ轟き、年端もいかない少女の白い肌に赤い花が咲き誇るのであった。


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