第385話 新聞部

 昼休み鮎京の手引きで新聞部の部員と部室で会っていた。

 狭い部室には俺と鮎京、新聞員3名、そして白前がいる。白前がいるのは俺だけだとどうにも警戒されて会って貰えなかったからである。白前が同席することで何とかこの会談は成立した。

 これで前回信用しきれなかった件といい、益々頭が上がらなくなる。

 しかしこれだけいると流石に圧迫感と共に女臭くて居心地が悪いな。やはり人は少ない方が清々しい。


「それで何の用なんですか? 貴重な昼休みが減るので手短にお願いします」

 初対面の新聞部の副部長 飯村の当たりがきつい。だがこうして会ってくれただけでもありがたいと下手に出よう。下手に反発すれば時間を無駄にするだけだからな。

「そう言わないでくれ、お礼はちゃんとする。少し教えて欲しいことがあるだけだよ」

 俺はフレンドリーな笑顔を浮かべて口調柔らかく言う。

「あなたに教える? また誰かの男関係でも聞きたいんですか」

 うぐっ、どこから漏れたのかあれはもう噂になっているようだ。あれが知られたら、まあ女性からの評判悪いだろうな。

 自業自得と己を諫めて、笑顔笑顔。

「誤解があるようだけど・・・」

「あれは明らかに人権侵害です」

 おっと人権侵害と来たか、新聞部にいるのは野次馬気質からじゃ無く意識高い系か?

 取り扱いに気を付けないとこじれて、第二の野上になってしまう。それはご免だな。もう間違えない。下手に下手に、これ以上の脱線はご免だ。解決すればおさらばだ。

 笑顔笑顔。

「必死だったんだよ。この不景気に教員免除を取れないなんて、分かるだろ」

 媚びを売る情けない顔で子犬のように下から飯村を見る。

 蔑むがいい、情けない男と馬鹿にするがいい。だから、いい気分で口を滑らせろ。

「自分の為に他人、それを未成年の少女を陥れたんですか。大人であるあなたが、それでも教師ですか」

 このくらいの少女にありがちな潔癖が尖っている。

 野上を悪者扱いすると反発されかと思って同情を誘う路線で行ったが全く効果なしどころか更なる反発と新たに侮蔑が加わった。選択をしくじったか。しかしよくもまあ口が回る。このままいけば将来は有望なフェミニストか人権派になりそうだ。

「それは誤解だ。自分のためだけじゃない。正義の為でもあった」

 路線変更。これなら正義の中二病さんには満足か?

「正義の為なら何をしてもいいわけじゃありません。あなたのような人が居るから警察が暴走したりするんです」

 警察も嫌いときたか、俺も半分警察それも公安なんだよな。

 もう俺がどんなスタンスを取ろうとも駄目なのは分かった。彼女の中では俺は権力を振りかざす女の敵、唾棄すべき男なんだろうな。ここに来たのも俺に協力するためじゃなくて彼女の正義を俺にぶつけるためなんだろうな。

 白前はさしずめ俺が切れて暴力に出たときの為のストッパーってところか。

 小賢しい。

「それは飛躍しすぎじゃ無いか。それに俺は法律は犯してないぜ」

「そう言ってあなたのように人権を踏みにじる人がいるから社会が良くならないんです」

 おっと学園を飛び出して社会とは大きく出たな。

「なら人権人権言って野上のイジメは見て見ぬ振りしていていいのか?

 まさか知らなかったとは言わないよな」

 野上の悪行の数々は有名。この学園の者なら誰でも知っているレベル。

「そっそれは」

 此奴も真の強者は糾弾しない。まだ無意識だろうが安全圏から弱い奴だけを狙うエセ人権家か。

「野上に怯えて何をしなかったお前より、勇気を出して告発した俺の方が非難されるのか?」

「それとこれとは違うわ。論点をずらさないで。大事なのは誰でも人権は保護されるべきということで・・・」

 全く折れる気配はない。まあ俺が嫌いだから攻撃しているだけだしな。しかし時間の無駄だな。

「悪党の人権を守って弱き者の人権が蹂躙されるのはしょうがないというのか?

 大した正義だが味方によっては弱い者イジメだな」

「わっ私が弱い者イジメ」

「はーい、ストップストップ。

 飯村ちゃんをあまり虐めないで、ちょっと堅いけどいい奴なんだから」

 激昂し掛かった飯村に水を差してきたのは、今まで黙っていた2人のウチの1人木下。茶髪気味のサイドテールで人懐っこい感じはする。出来れば彼女から情報を仕入れて退散したい。

「俺は別に啓蒙する気はないぜ。俺の知りたいことを教えてくれたら、さっさと退散するし、もう関わらない」

 こう言えば、普通の人間ならどうすれば両者にとって得か分かってくれる。

「鮎京の話だと取引って感じだったけど」

 うんうん、いいぞ。これだこれがいい。

「対価は情報の内容次第だな」

 金で済むならもう言い値で払ってやるぞ。

「OK 私もぶっちゃけ、あんたとあまり一緒の部屋に居たくないし。

 っで何が知りたいの?」

 人が良さそうでぶっちゃけすぎだろ。俺になら何を言ってもいいわけじゃ無い。だが今はそんな俺個人の感情に構っていい時じゃない。構えばもっと拗れる。

「新聞部には福島って子がいるだろ」

「ええ」

「彼女について知りたい。ますは最近何か変わったことが無かったか?」

 ここで魔に目覚めた事件の話なんか聞けると話が早く終わる。

「まるで刑事みたいですね」

 なのに飯村が割って入ってくる。

「名探偵みたいだろ」

「なんでそんなこと知りたいんですか?

 理由を言ってください。そうでなければ一言もしゃべらないわっ」

 お前と話してないんだがな~。

「ちょっちょっと飯村ちゃん。さっさと知ってることしゃべって帰って貰おうよ。あっ当然報酬も頂きますよ」

「木下は黙ってて。安易に個人情報を渡せるわけないでしょっ」

 面倒臭いな~、相手にしたくないがこれも仕事。

「またそうやって綺麗事だけ言って満足するのか?」

「なっそんな私は正しいことを・・・」

 パンッ、壁を叩く音が響いた。

「はいそこまで、言い過ぎよ」

 もう見てられないとばかりに今度は白前が俺を睨みつつ割って入ってきた。

「子供扱いしない、生徒と対等に話すいい教師だと思うけどな」

 そもそも俺と此奴らそんなに年齢変わらないんだが。運動部の部活のじゃあるまいし一二歳の年の差で大人の対応を求められても困る。

「はあ~私が立ち合って良かったわ。飯村さん、大事なことなの・・・」

 白前が優しく飯村の説得を始め俺は仲間外れ。

 一応助け船を出してくれたのかな?

 ならしょうが無い俺は大人しく引っ込むとして、先程から俯いて黙ったままのもう一人ボブカットの中塚に優しく声を掛けてみた。

「君はさっきから黙っているけど、何か知らないかな」

 俺に呼び掛けられ顔を上げた彼女は妖精のように透き通るような白い肌をしていた。

 この顔の白さ俺は知っている。

「先生、いいもの見せてあげる」

 いきなり中塚がYシャツのボタンを外しだし俺の思考は停止した。

「ちょっと中塚何を為ているの」

 気付いた飯村が中塚を叱るが、構わず飯村はブラを取り白い双丘がぽろりと露わになる。

 思わず目を奪われた。

「やっぱり先生も男ね。

 最後に綺麗なもの見れて良かったね。

 じゃあ汚い男は虫螻みたいに潰れちゃえ」

 中塚は俺を嫌悪する侮蔑の嘲笑を浮かべ、俺が懐に手を入れるより早く乳房がビックバンの如く膨張した。

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