第383話 化け物の饗宴
住宅街から外れた廃工場。元は小さい金属加工の工場でそれなりに活気もあったが長引く不景気で潰れ閉鎖され、周りにある工場から取り残されたように音が響いてくる。
栄枯盛衰。かつての工業大国日本も仕事を海外に奪われ何処の街にでも見られる当たり前の光景となっている。
塗装が剥げ落ち錆が浮き出している平屋の中は元は工作機械が並べられていたであろうが今はがらんとして、綺麗な緑色であった床のタイルはホコリが積もりひび割れている。
死んでしまった場所だがかつての活気が蘇ったか今はギラギラとした人だかりが出来ていた。
晒した素肌に入れ墨を施した筋肉隆々の若い十数名の男達。活気溢れる彼等は輪となり二人の少女をニヤニヤと見ている。
麻縄に縛られ床にへたり込んでいる水永とそれを見下ろす野上。
「私をどうするつもりなの・・・帰してよ」
「あなたが悪いのよ。あんな男と仲良くするから」
必死に声を縛り出す水永を野上は一笑に付す。
野上 さおりは人間らしい。
人間らしく上に立って威張るのが好き。
人間らしくちやほやされるのが好き。
人間らしく弱い者をいたぶるのが大好き。
人間らしく執念深く執着する。
果無との陰謀合戦に負けて父からの寵愛を失い学園での評判も失墜した。普通なら心が折れてしまうところだが、野上は不屈の精神で起死回生の一手に出る。
夜の街で遊んでいる時に知り合った半グレ集団を使って水永を早朝から攫ったのだ。朝の町で?と思うかも知れないが、意外とだが死角はある。水永が人より早く登校しているもの裏目に出た。
そして何時か使おうと目に付けていた父の会社が管理している物件の一つであるここに連れ込んだのだ。元が金属加工の工場だけに防音がされていて音が外に漏れにくい上に、周りに工場からの騒音も響いていて下手に鎮まる夜より犯罪が発覚しにくい。まさに野上のような人間が目を付ける要素が揃っている。
「あなたには餌になって貰うわ。でもその前に少し遊びましょ」
「どういう意味?」
水永は震える声で知りたくもない答えを求める。
「あなただって性教育は受けたでしょ。カマトトぶっていたって男に攫われてこんな所に連れ込まれたらどうなるか分かっているでしょ?」
野上の顔が悪魔に染まり水永の顔が恐怖に染まる。
「辞めて辞めて辞めてーー」
水永が必死に懇願するのを野上は極上のエンターテイメントとばかりに笑って鑑賞している。
「やって」
人間は集団になると理性が剥がれその本性が表れる。周りを囲んでいた男達は野上の命令で待てを解除された野獣のように女肉に群がる。
水永は人間の尊厳である服を全て剥ぎ取られ、手足を男達に押さえられ床に大の字に押さえられた。
膨らみだした胸も生えそろった恥毛に隠された性器も排泄口も染み一つ無い瑞瑞しい肌も少女の持つ秘宝全てを大勢の男達の前に晒らされる。それだけでも辛いのに悪魔達の悪意は終わらない。
「見ないで」
蚊の鳴くような声で嘆願するが、野上は遠慮無しに晒される局部を覗き見て指を入れていく。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいっ」
「あんまり遊んでないのね、堅いわね。
えっ何この引っかかり、まさかあなた処女だったの!?」
「えっほんとかよ」
「だったら俺に先にやらせろよ」
水永の顔は真っ赤になり、野上の宣言に男達の間に歓喜が湧く。
「あははっまだ処女だったのね。堅い女だと思っていたけど可哀想に、さっさと棄てていればいい思い出にできたのに。
本当はこのまま輪そうかと思ったけど、折角の処女ですものもっと色々と遊ばないと」
野上の顔がサディスティックに輝く、野上は人が苦しんだり悲しむ顔に喜びを感じる真性ブレーキはない。
「おいおい、お預けかよ」
「焦らない。時間はたっぷりあるんだし、素敵な思い出をプレゼントしてあげないと」
そうね、まずは花瓶なんてどうかしら」
「やめて」
水永の必死の懇願は笑顔のスパイスにしか成らなかった。
水永はまんぐりと引っ繰り返された上に手と足をロープでMの字になるように縛られた。性器と排泄口が上を向き丸見えになり取り囲んだ男達がニヤニヤと眺めている。
「肉瓶ね。折角だし飾り付けてあげましょ」
野上は処女は取っておくとばかりに菊門の方に花をずぶっと差し込んだ。
「ぎゃあああああああ、痛い痛い」
「あははははっ面白い面白いわ、この写真ネットにばらまけばあなた一躍有名人よ。
力があればこんなに楽しいことが出来る。私は絶対に力を手放さないわよ」
この時の野上は権力を取り戻すためなら両親でさえ手に掛けそうな顔をしていた。
古来より権力は人を狂わし骨肉の争いを引き起こしてきた。こういった意味でも野上はなんと人間らしいのだろう。
「ああ、協力してやるよ。お前の邪魔になる奴らは片っ端から攫ってきてやる。だから分かっているだろ」
「ええ、勿論一緒に楽しみましょ」
「怖い怖い、お前は俺達以上かもな。
なあそろそろいいだろ。こんなの見ていたらもう我慢出来ねえ」
野上に話し掛けていたリーダー格の男が待ちきれないとばかりに、ズボンのベルトを外しだす。
「風情が無い人ね。まあいいわ。じゃあ今度は綺麗に処女の花を散らしてあげなさい」
呆れたような顔を野上はするが野上自身もこれから水永見せる顔に待ちきれない思いであった。
「それじゃ俺から、テメエ誰だっ」
スケベ顔をしていたリーダー格の男が突然仲間の後方に向かって叫んだ。
「えっ」
水永を取り囲んでいたマヌケが一人が振り返るより早く俺は其奴の後頭部に鉄槌を叩き込み昏睡させた。
まずは1人片付けられたが、あのリーダー格スケベ面晒しておいて隙が無い、そうでなければこんな悪魔共のリーダーなんか出来ないか。雑魚に混じって近付いて一気に水永を救うと同時にリーダーと野上をやる目論見が崩された。
「果無っ、なんでお前がここに」
野上が鬼の形相で俺を睨み付けてくる。
「お楽しみになかなか呼んでくれないから来てやったぜ」
普通なら攫って手を出す前に俺を呼びつけるもんだろ。それを躊躇いなく人質をボロボロにして見せ付けようなんてもはや一線を超えている。
俺も心のストッパーを外し、男達も黙って俺を取り囲み出す。
「果無だと、此奴が?」
「どうやってここが分かったか知らないけど、あなたも参加したいのかしら」
野上は俺が1人だと知ると小馬鹿にした顔を向けてくる。此奴らが一番恐れていたのは通報されること。そういう意味ではもうお巡りさんは来ているんだけどな。安心しろ下手に応援を呼んで人間の目に水永を晒すつもりは無い。
「先生、見ないで」
俺を見た水永の第一声が助けててでなく見ないでと言う。どれだけ自尊心を傷付けられたのか痛いほど分かる。
「気にするな。
ここにお前以外に人間はいない、いるのは人間の形を為た化け物だけだ。化け物に見られたところに羞恥を感じるなんて可笑しいぞ」
犬に裸を見られても何とも思わない、化け物に裸を見られても恐怖するだけのこと。
恐怖なら人間は乗り越えられる。
「言ってくれるわね。
なら上等な人間さん、一歩でも動いたらこれクリックするわよ」
野上は意気軒昂とスマフォを掲げた。
野上は何か勘違いをしている。ここには水永以外人間はいないと言ったんだがな。この程度の言葉も分からないほど脳が退化しているのか。
久しぶりに人間の箍を外してやるよ。
「一歩でも動いたら、あなたの大事な女の芸術的な写真をネットにばらまくわよ。そうなったらもう一生外を歩けなくなるんじゃ無いかしら。
ばらまかれたくなければ、まずは両手を上げて跪きなさい、っぎゃああああああああああっ」
パンッ乾いた音と共に野上が掲げたスマフォが砕け散り、破片が野上の掌に突き刺さり掌を真っ赤に染めた。
「じゅっ銃!? 何でそんな物持っているのよ、それに当たったらどうするつもりだったのよ。これだけの目撃者がいるのよ、私が死んだらあなたも社会的に終わりよ」
こういう時だけ都合良く社会常識や法律を持ち出す清々しいほどのダブルスタンダード、道徳や法律は守るべきものじゃ無くて利用するものというのが徹底されている。
「先生として教えてやろう、自分だけが特別なんて思うのは傲りで足下を掬われるぞ。
それと質問の答えだが、俺としては別にお前に当たっても良かった」
「えっ!?」
あっさり言った俺に野上の顔がなんとも言えない顔に歪む。
一応狙ったがスマフォを砕いたのは俺も驚いた。訓練の成果って出るものなんだな。俺は射撃訓練訓練をそこらの警官より受けている。
「普通じゃ無いと思っていたけど、銃を持っているといいサイコパスの殺人鬼だったというわけね。私もとんでもないのに喧嘩を売ったもんだわ」
秘密警察とかそういったものでなく真っ先に浮かぶ正体がそれか、まあ俺が正義の味方に見えないのはしょうが無いか。
俺は嫌な奴だからな。いや今は心の壊れた元人間か。
「さあ~てどうかな、ご想像にお任せするぜ」
「けっ気取りやがって、言っておくがこっちはお前の顔と名前覚えたぜ。運良くこの場を切り抜けられたとしてお前は終わりだぜ」
「そうなのか。『厳愚隷』リーダー班波 碌太郎さん」
「なっ」
推測と勘が半々で言ってみたが班波の顔は驚愕に染まっていた。
ポーカーに弱そうな奴だ。
半グレ集団「厳愚隷」、リーダーは班波 碌太郎。涼月から貰った資料にあった奴らだ。だがリーダーの班波は中々用心深い奴のようで、涼月でも居場所と顔を割り出せていなかったようだ。それが全く予期せぬ別ルートから偶然に割り出せてしまうとは、お天道様は見ているとは昔の人は良く言ったもんだ。
俺も全くの予想外だったが小島の失踪と関係ある厳愚隷と野上が繋がっていた。結果から推測すれば、ギャルの小島と柔道部の野上に一見繋がりはなさそうだが繁華街で遊んでいるという共通項があり、男を巡って何かしら両者が揉めた可能性は十分にある。
まっあくまで結果からの推測という今更感だけどな。こうなっては詳しいことは生き残った奴に聞いてしまえばいい。
唯一の懸念は、協力関係にある涼月を出し抜く形になってしまったこと、いや連絡する暇無かったししょうがない不可抗力。寧ろ協力者として涼月の手を煩わせなかったと喜んで貰えるんじゃ。
・・・。
土下座でもすれば許してくれるよね?
「益々ここから生かして帰せなくなったな。
リバルバーなら残りの弾は5発だろ。俺達は5人より多いいぜ。それに正義の味方かぶれに人を撃つ事なんか出来ない、ハッタ・・・」
パンッ、ぎゃあああああああああああああああ。
班波が得意気な台詞を言い切る前に銃声が届き悲鳴が上がった。
「えっ!?」
悲鳴が上がった方を見て班波は仲間の1人の太股から血が噴き出している事態に狼狽した。
「いえてえいええいてえええええよーーーーーーーーーー」
撃たれた男は床に転がってのたうち回っている。
「俺が何だって?
これで残りの弾は4発になってしまったようだが、あと4人は道連れに出来るぜ」
床を痛みでのたうち回る男を見て俺を取り囲んでいた男達は腰が引け始めていた。戦国時代じゃあるまいし、主のために仲間の為に自分の命を懸けて一番槍を出来る奴はそうそういるもんじゃない。
ビバ、人権大事の民主主義教育が行き届いている現代。
ぐだぐだ能書きを垂れる前に勢いで一斉に襲い掛かってくれば危なかったが、見せしめを作れたことで流れは俺にぐっと傾いた。
「どうする? 楽しいロシアンルーレット、おまえらの残りはひいふうみいの12人って所か、死ぬ確率は4/12で悪い数字じゃ無いな」
くるっとターンして二本抜き手が背後から忍び寄っていた男の喉に突き刺さる。喉は柔らかいから俺程度の二本抜き手でも突き指すること無く男の喉にメリ込んでいく。
「うげーー」
「残念。これで4/11。
当然だが俺は素手でも強いぜ」
「やってられるか」
男達は目の前の男が人の命を何とも思わず奪える化け物であることを認識してしまった。認識してしまえば恐怖が沸き上がり逃げようと背を向けた男の肩に銃弾がめり込む。
「ぎゃああああああああああああああああああああああ」
男の悲鳴はいつ聞いても耳障りだな、静かにする為止めを刺したくなる。
「勝手に逃げようとするんじゃねえよ、空気が読めない奴だな」
「くうきって」
「あっここは命を賭けた大勝負って流れだろ。
来いよ、ヒリヒリするスリルを味わおうぜ」
そうでなけれ胸の内から沸き上がる赤い衝動が収まらない。
今の俺は悪魔を凌駕する笑顔を浮かべているのか俺を見る半グレの男達の顔が青ざめていく。
盛り上がっていくボルテージ、さあ爆発させようぜ、化け物の饗宴だ。
「すいません」
男達は一斉に俺に頭を下げた
「え?」
「あなたの女だと知らずに手を出したことをは謝ります。
お詫びにこの女を置いていくんで、それで手打ちにしてくれませんか?」
班波が野上を前に押しだす。
「えっちょっと裏切る気」
「うるせえ黙れっ」
文句を言う野上の顔を班波は躊躇無く殴って黙らせた。
「お前本気か?」
「はい」
「お前の女だろ」
「いえいえ金蔓になると思って遊んでやっていただけです」
班波は野上の後頭部を小突きながら愛想笑いを浮かべる。
破裂寸前膨らんだボルテージが急速に萎んでいくのを感じてしまった。
「興が削がれた。怪我人を連れて消えろ。適切に処理すれば助かるだろ」
俺の怒りはまだ残っている。だが此奴らの命を奪えば俺だけでなく助けられた水永も背負うことになることに醒めた頭で気付いてしまった。
例え化け物でも死にはそれなりの業が付き纏う。
背負わせなくて済むなら、それが一番だ。俺のように戻れなくなる。
天秤が崩れ怒りを俺の合理性が上回ってしまった結果だ。
「はい」
厳紅蓮のメンバーは水が引くように消え、この場に俺と水永と野上が残された。
「ひいっ」
俺が縄を解いてやれば、水永は怯えた声を出して飛び退いてしまった。
蹲って此方を見ようとしない。深刻なトラウマが刻み込まれた下手をすれば社会復帰は出来ないかもしれない。
いやまだ処女だし人は死んでない、そこまで業を背負っていない。元に戻せるはずだ。
「わっ私を抱いていいわよ。だから・・・」
思い詰めた顔をした俺に何を感じたか野上が必死に媚びの笑顔を作って言う。
この女はとことん俺を苛つかせる。
「お前みたいな汚い女見たくも無い。
これでお前は全ての後ろ盾を失ったな、これから外を歩けると思うなよ」
もう興味は無い。一線を超えた犯罪者は刑務所に入れてしまえばいい。後ろ盾がない以上変な政治的横槍が入ることも無いだろう。
「汚い、汚い女。うわーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
しまった!!! 野上にぶつけた侮蔑が水永に聞こえてしまい、受け止めてしまった。
これだから俺は配所が足りない気が配れない、社会不適合者なんだ。
「大丈夫だ。お前は汚くない」
俺が迂闊にも慌てて水永に駆け寄ろうとした挙動を見逃す野上じゃ無かった。野上は一目散に逃げだした。
「くっ」
柔道部で鍛えただけあって足が速い、俺は銃を抜き撃ちしたが外れ野上は廊下に出て姿が見えなくなっていた。当てる気だったのに、まだまだ訓練が足りないようだ。
先程の媚態は嘘。野上は折れてなかった、全ては演技。一瞬の隙が出来るのを虎視眈々と狙っていたという訳か。
下手な魔人より手強い。追いかけるべきだ。だがこの蹲る水永を1人放っておけばもう取り返しが付くなくなる予感がする。
「クソがッ」
俺は感情で水永を取った。
「大原かワゴンで迎えに来てくれ」
苦い思いを噛み締めながらスマフォで大原を呼ぶのであった。
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