第382話 調査再開
次の日俺は窓際族になっていた。
嘉多先生が出張から戻り次第教育実習は再開するという約束をしてくれ、実習の評価も問題なしにすると約束してくれた。だからその代わり出来るだけ大人しくして生徒との接触も出来るだけしないでくれと教頭にお願いされた。
流石に生徒のシモ事情の暴露はやり過ぎだったようで唯一の理解者を俺は失ったようだ。
今まで教頭が事務仕事を振ってくれていたが、今日は仕事が無い、何もする事が無い。
これが窓際族という奴か。
まあいい。俺の本来の目的は教育実習で無く、連続女子生徒失踪事件の解明だからな。生徒に接触しなければ無理に職員室にいる必要もあるまいと俺は図書館に向かった。
本来なら昼休みと放課後の時間にしか開いていないが、俺が職員室にいない方がいいのかあっさりと図書館の鍵を貸してくれた。
誰もいない本の匂いがする空間にいると心が落ち着く。このまま本に埋もれるのも悪くないが、その前にやることやっておくか。
スマフォを取り出し野上達の様子を調べるように頼んでいた栗林からのメールを見た。
心が折れなかった以上もう興味は無いが、下手に復讐をされてこれ以上煩わされたくないからな。
『野上は休み、ついでに取り巻きも休み~』
流石にあんな事までしておいて負けて次の日のうのうと学校に来れるほどメンタルは強くは無いようだな。今頃家で母親と逆転の秘策でも練っているのだろうか。まあ、野上達が退学になろうがお咎め無しだろうが、俺の邪魔にならなければいい。
『追伸。そういえば珍しく水永が休みだったよ』
そうか、風邪だろうか? まあ俺が特に動くことは無いか。
『ご苦労、引き続き生徒達の動向を探ってくれ』と栗林にメールを返信して終わった。
野上という悪意の重しがなくり、沈んでいた闇が浮かんでくる。そこに必ず魔に通じる道がある。
メールのチェックも終わったことだし、今日の目的をするか。
初めてこの学園に来たときから何かを感じていた。最初こそ女子高という特殊空間の所為かと思ったが、慣れてきたからか、どうもこの学園という場から何かを感じているように思えてきた。
そうなるとこの学園の由来や七不思議などを知りたくなるが、そんなマイナーな情報は誰もネットに上げたりしない。やはり時代後れでもアナクロになる。そういった情報を求めて俺は地域の歴史風俗のコーナーから本を何冊かピックアップする。
掘り出し物は音畔女学園の歴史が記された本。自費出版のこんな本はここくらいでしか読めないだろう。
この本に寄れば明治後期にこれからは女性も教育を受けるべきとじいさんの先祖の実業家が神社へと続く山の中腹を切り開いて建てたらしい。迷信深い人らしく神社自体を残す形にしたようで、学園を抜けて山を登っていけばお参りは出来るらしい。
それがあの校門から真っ直ぐに続く道か。あれは参道も兼ねているのか。やはり一度その神社を見てみる必要があるかも知れないな。魔人は兎も角、人の認識から生まれるユガミは意外とそういうところに潜んでいる。
神社の名前は「葦遊神社」か、葦が遊ぶ、どんな由来があるんだろうか? この本が読み終わったら風俗の本を探して神社の由来やこの地に伝わる民族伝承を調べるとするか。それとじいさんが言っていた昔の神隠し事件についても知りたい、そうなると新聞か。
時間が惜しい、俺は並べた本を読み込んでいく。
「ふう」
目が疲れふと本から視線を上げると独りの生徒がいた。
逆光に透き通る黒髪が花のように広がり透き通るような白い肌を際立たせている。
「先生何を読んでいるの?」
シンセサイザで作られたような硬化質で透明感ある声で訪ねてくる。
「地域の風俗とか歴史の本だ」
「ふう~ん」
女生徒とは滑るように近寄ってきて、一瞬見穫れている内に背後に回られていた。彼女に殺意があれば俺は死んでいたな。
「どれどれ」
女性とは俺の後ろから本を覗き込んでくる。さらっと髪が俺に流れ呑み込みたくなる。
耐えがたい誘惑、砂漠で渇水するか如し。
「おい馴れ馴れしいぞ」
誘惑を振り払い告げる。
正直俺でなかったらここで女生徒を襲い人生終わっていただろう。
「ふうっ」
ゾクッと官能した、女生徒の体内で温められた生暖かい吐息が俺の耳に吹き掛けられたのだ。肌を走る吐息が肌を舌のように舐め回し官能に血で膨張しそうになる。女を欲しくなる。
「そもそも今は授業中だろ。名前とクラスと学年を言え」
心と体を切り離し俺は理性だけで先生ならする行動をシミュレートして演技する。そうでもしないとこの俺が本能に呑み込まれそうになる。
「ふふっ先生私のことを知りたいのかしら」
蠱惑的に小首を傾げる首が細くなまめかしく吸血鬼のようにがぶり付きたくなる。
「ああ知りたいな、だから名前とクラスを言え」
先生らしく注意をしているのにまるでナンパをしているかのような錯覚に陥る。
「ここでいいことしない」
天使の誘惑、清楚で透き通る雰囲気はそのままに上目遣いのコケティッシュな誘いをかけてくる。
これで同意の上と抱きつきたくなるのを口の中を噛んで押さえる。
「・・・済まないが俺は教師だ」
この俺が打算も合理も無く何もかも棄てて抱きたいと思ってしまう。
この女は危険だ。
最善の策は逃走しか無い。
「残念」
少女はさして残念でなさそうにペロッと舌を出しながら言う。
「あなた抜け目が無いようで抜けているのね」
俺が逃げるより一歩早く少女はメモを俺の前にさっと差し出した
「何だ?」
「今ならまだ間に合うかもよ」
立ち去っていく少女の背中に流れる黒髪に未練を残しながらもメモを見た俺は顔が強張るのを感じた。
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