第379話 長引く掃除
いよいよ放課後となった。
俺は立ち上がり待機していた部屋から出る。このためにかなりの時間やコストを掛けて入念に準備してきた。もはや詰み将棋の如く手順を間違えなければ勝利を得られる。
作戦を確認するように一歩一歩踏み締めて会議室の扉の前まで来た。
オールグリーン、勝負の火蓋を切るかの如く扉を開ければプレッシャーの濁流が押し寄せてくる。
勝負は始まった。ここからは一手の間違いが敗北を呼び込む。背筋を伸ばし余裕の微笑みを作ってプレッシャーを掻き分け被告人席に立った。
前を見れば、正面には机がコの字に組まれ、正面は学園の校長以下のお偉いさんが勢揃い。窓側側には野上夫妻及び野上と生徒指導の近藤。
そして廊下側には誰もいない。
正面と左側からは熱風のプレッシャーが吹き荒れてくるが、右側は逆にガランとして寒々しい。
まあ今は寂しくても廊下側には俺が用意した証人が呼ばれて席に着くことになる。きっと正面と左側を圧倒する熱風が吹き荒れるだろう。
左右に分かれた俺側と野上側で主張を戦わせ、正面の学園のお偉いさん方が判断を下す形式には成っている。
吊し上げが目的と前回と違うこの公平な配置は多分教頭の差配だろう。
感謝かな。
数時間にも感じる数分の熱い無言の時間が過ぎると校長が時計を見る。
「それでは予定時間になったので我が校で起きたゆゆしき暴行事件の調査を開始する。
教頭お願いします」
校長が開始の宣言をし、議長を教頭に委ねる。
これは意外と公平な審議になる?
「それでは始めるが、果無君は証人は見つかったのかね」
教頭が俺に問い掛ける。
この会議の肝は俺の無実を証明出来る証人を見付けられるかどうかではない。そんな者は腐るほどいる。勝負は証人にこの魔女裁判に出て貰うことを説得出来るかどうか。負ければ確実に学園の支配者になる野上や校長一派に目を付けられ、残りの学園生活は悲惨なものになる。そのリスクを負っても勝ちに掛けたくなるメリットを提示出来るかどうか。
そして俺は見事提示出来た。
「そんな者いるわけ無いだろ」
俺が答える前に近藤から野次が入る。本来中立でないといけない生徒指導の近藤は完全に野上側、幾ら貰ったのか、それとも出世でも確約されているのか。どちらにせよ、利益誘導は互いの得意技というわけだ。
この裁判に正義なんてなまっちょろいものは無い。欲望と打算、どろどろの権力闘争。
「ええ見つかりましたよ。この場で証言をしてくれると約束もしてくれました」
自信たっぷりに答える俺がチラッと野上を見ると焦った様子も無く平然としているのが気になる。
一応協力者のことがバレ無いように外のカラオケボックスで会ったりしつつ、ダミーとして古川と表だって協力者探しをしたりもした。これが功を奏していれば、野上は俺が協力者が現れず自分の勝利間違い無しと油断していたはず。現に協力者捜しを妨害されることは無かった。
だとすれば俺の今の台詞は予想外だったはず?
このアマが潔く観念なんかするわけが無い。
何か切り札を伏せてあるのか? それとも俺が用意した証言程度では優位が覆らないと確信しているのか?
だがもう全ては後の祭り、ぐだぐだ考えてもしょうが無い。始まった勝負は用意した手札でやり切るしか無い。
「廊下で待っているはずなので呼んでいいですか?」
「許可する」
教頭の許可を得て俺は廊下に向かう。廊下に出れば柔道部の反野上派の白前や黒井、橘井達が待っているはず。彼女達の野上への憎しみは本物、彼女達が証言してくれれば、如何に校長や近藤が庇おうとしても、中立の教頭や他の隠れ理事長派の職員が認めないだろ。
悪くでも五分には持ち込める。
そんな打算を描きつつ扉を開け廊下に出るとガランとしていた。
誰もいなかった。
掃除が長引いているとか?
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