第374話 仕込み2

 星空より地上の方が輝く繁華街、大勢の人が欲望に惹かれて道を行き交う道から外れた路地裏で俺は影狩達と合流した。

「ターゲットはどうだ?」

「丁度いいタイミングだ。一次会が終わって今からが本番だぞ」

 少し遅れたが、本命には間に合ったようだ。

 ビル影から影狩が指差す方を見れば、野上父こと野上 翔陽が金持ちそうな身なりのいい壮年の男を二人ほど案内して、高級クラブに入っていくところだった。

 こうして見ると、いい男だ。

 背が高く顔には男の余裕と責任感が滲み出るダンディで外見だけで幾らでも女が寄ってきそうだ。それでいて音畔女学園がある一帯を中心にマンションやショッピングモールなどを手掛けている中堅から頭一つ飛び抜けた不動産会社の社長。寧ろコンプライアンスなどと五月蠅い大企業の社長より自由になる金を握れる立場とも言える。

 これだけ条件が揃っていれば、愛人の一人や二人は絶対に囲っているだろう。だが隙無く隠しているのか、時間が足りないこともあって大原と影狩に調査をさせたが愛人の噂すら嗅ぎ取れなかった。

 正直伏兵古川のこともあって野上を追い詰めるネタは結構集まったが、野上の力の源泉は父親の権力、ここを潰せれば野上の心を完全にへし折れる。

 悪いが野上は徹底的に二度と立ち上げれないくらいに叩き潰す。

 その為にも、何か無いかとヤクザとの繋がりとかをコネがある刑事とかに聞いたが掴めず、諦め掛けたところで大原が今日社長自ら大地主に接待をするという情報を入手してきた。これぞ天の采配と全力で挑むべく動かせる全メンバーを揃えた。

「よし、俺達も行くか」

「オッケー」

 俺は面が割れているので髪型を七三に変え黒縁眼鏡をした上で、俺と影狩は量販店で購入したスーツを着用していた。

 これで会社帰りのサラリーマンが遊びに来た風に見えると思ったんだが、俺は兎も角影狩は堅いスーツを着ていてもなぜかホストに見えてしまう。

 だが今更中止は出来ない。

「指示は店内からスマフォで出すから二人とも頼んだぞ」

 外で待機する大原と栗林に俺は言う。

 二人は見張り要員兼尾行要員兼ハニートラップ要員だ。

 大原は大人の色気を前面に出した濃い化粧と露出の高い服で、大人の女役のハニートラップ要員。

 栗林は髪を黒く染め直しストレートにした清楚な少女風に装った薄い化粧と大人しい服で、家出少女役のハニートラップ要員。

 状況と場合と流れによっては二人のウチどちらかに翔陽を誘惑して貰い、ホテルまで行って貰う。部屋に入ったら渡しておいた睡眠薬で翔陽を眠らせ写真をパシャリという計画だ。一日に二回のハニートラップは流石に怪しまれてしまう、仕掛けられるのは一度きり。うまくクラブでの観察から翔陽の好みを掴んでおきたい。

「はい、お気を付けて」

「あーあ、お二人さんはお楽しみでウチ等は寒い中待機なんて不公平じゃね」

 栗林は俺と影狩がクラブに潜入捜査すると聞いてからどうもにも機嫌が悪い。

「仕事だ」

「楽しみにしているくせに」

「妬いてんのか?」

「ちげーし」

 いつもなら軽く流す俺の冗談にマジギレ寸前だ。

 これはあれか、真面目に仕事を頑張って妻に拗ねられる夫の如く理不尽でも機嫌を取らないといけないのか?

「上手くいったらうまいものご馳走してやる」

「やっりーロイホスでよろしく」

 もっと高いものを要求されるかと思ったが、遊んでいるようでも女子高生かロイホスでいいのか意外と可愛い奴だ。

 こんな事を思ったのを悟られたらまた機嫌が悪くなる、何とか機嫌を直した栗林がご機嫌の内にと店に向かうのであった。

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