第373話 仕込み

「そうですか、別に重い病気と言うわけでは無いのですね」

「はい、精神的な疲労が溜まっていたようですね。医者が言うには暫く休養すれば大丈夫なようです」

 教頭は俺の報告を受けてほっとしたような顔をする。大久も然う然う嫌われているわけでは無いようだな、それとも教頭の人間が出来ているだけなのか。

「そうですか、それは良かったですが取り急ぎバレー部の方をどうにかしないといけませんね」

 ただのいい人じゃ無い、直ぐさま対応に頭を切り開ける教頭は仕事も出来るようだ。

「全国大会を目指しているんでしたか、まあ少しの間ですし生徒の自主練で何とかなるんじゃ無いですか?」

「そうでしょうが、学校としてはお飾りでも責任者がいるんですよ」

 万が一生徒だけの練習で事故があったら、学校の体質が問われてしまう。お飾りでも責任を押しつける生け贄がいると学校へのダイレクトダメージは幾らか軽減される。

「なら教頭でもいいじゃ無いですか」

「そうですね。果無君やってみませんか? 嘉多君の話ではバレー部に興味が有るそうじゃ無いか」

 俺の軽い問いにさりげない重いカウンターが返ってきた。

 嘉多さん俺の言ったことに対してちゃんと動いて報告してくれていたいのか・・・。

 普通なら感謝するところなんだろうが、正直もうバレー部からは必要な情報は得られたので用はない。用が無いならそんな面倒臭いことをしたくない。

「ご冗談を明日にはクビになっているかも知れないんですよ」

「そうでしたね。なら明日を乗り切ったら考えてみて下さい」

 上司の考えてみて下さいはやれと同意語。

 えっ俺バレー部の顧問なんてやらないといけないの?

「では明日を乗り切るために所用があるのでこれで失礼します」

 雑用をくるっと回った背中で拒絶して、デスクを片付け放課後のチャイムと同時に職員室を飛び出した。

 学園を出れば一目散にカラオケの一室を借り、静香や六弦達が連れてきた生徒達から野上の彼氏達や虐めの現場や合コンの話等々の情報を入手していく、その際の金で済まなかった取引条件のめんどくさいこと、事件後も暫くは休めそうに無いな。

 ただより高いものは無い、例え多少高くても金で済むことの何と便利なことか、金こそ人類最大の発明だな。

 集まる情報、だがこれだけでは意味が無い。この情報をまとめて分析して活用しなくては意味がない。まとめて分析までは時間があれば誰にでも出来るが、活用するには直感が必要。だが今はその誰でも出来るまとめて分析する時間すら満足に取れない。

 このままでは情報を集めるだけで何の活用も出来ず徒労に終わってしまうかも知れない。だが知識無くしてヒラメキも無し。直感も膨大な土台合ってこそ、無から生み出せるのは一握りの天才のみ。

 だから更なる情報をもとめてぶー垂れる栗林と共に繁華街に向かうのであった。

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