第365話 善意の魔
俺が涼月を見上げ涼月が俺を見下ろす。
止まったかのような時が流れる。
やがて時が動き出したかのように涼月の口が開く。
「いいわ、掌の上で踊って上げる」
涼月は俺の思惑など見透かしていると言わんばかり。
「この学園に潜む魔、それが何であれ私が力を貸してあげるわ。
それでどう?」
涼月はこの学園に魔が潜んでいることを確信している。そしてその魔が涼月にとって何かしらの因縁が有るようだな、でなければこんな簡単に折れるわけが無い。
しかし毛嫌いしている俺に協力してまで狙うような魔なのか?
涼月は世の理不尽に泣かされた女の仇を討つ、だが今のところこの魔はそんなに凶悪には思えない。今のところ分かっている魔の現象は、辛い目に合って失踪した少女のことを周りが忘れてしまうといういうこと。
少女の失踪が自発的なのか魔によってなのかで評価が別れるが、もし少女の失踪が自発的なら残された者達が悲しまないようにしている余計なお節介をしている魔とも評価出来る。
まあ放っておけば大惨事になるから、魔の善意であれ調律するがな。
「ターゲットは魔か。その魔が君のターゲットだった場合君の一人勝ちか」
俺は確認するように尋ねる。
「あら、あなたにとってはこの学園に潜む魔が退治できれば、手段は問わないんじゃないの」
「その通りだ。
まあ、それなら俺も査問に掛けられてもどうとでも言い逃れられる。
契約成立だ」
ついでに、くだらない小芝居も終わりだ。
「そうね、ひとまず仲間ね。
でも分かっているわね?
もし私を騙したり裏切ったら」
脊髄を梳かすような声で俺の覚悟を問い糾す最後通達、承諾したらもう後には引けなくなる。
「分かっているよ。
君という少女を泣かした罰で俺は雨に溺れることになる」
果たして涼月を騙した罪の重さはどのくらいか、かつて見た体中が白くぶくぶくに膨れ上がった死体、同じ死ぬにしてもああは成りたくないな。
「そうならないことを祈るわ。
あなた自惚れているようだけど、別にあなたを排除したいとは思ってないわよ」
涼月にとって見れば俺は退魔官だが宿敵と言えるような驚異じゃ無い、黙殺できる程度の官権の一人に過ぎないということか。少々癪だが不倶戴天の敵と見なされて四六時中付け狙われるよりかは良しとしよう。
それでもそれを素直に認めるのは男として少々癪ではある。
「ツンデレって奴か涼月」
「今ここで私に対する侮辱で沈めてあげましょうか?」
俺の軽口に涼月の目が俺の体中の細胞が励起するほどの殺気に染まる。
直ぐさま女王様の機嫌を取らないと、単なる遭遇戦の事故で殉職してしまう。
「その罪は涼月の期待以上の働きで精算してみせるよ」
俺の芝居懸かった台詞と一礼、言ってしまった。これで涼月に宣言した以上期待以上の働きをしなければ俺は涼月に対して更に業を背負うことになる。
闇金より悪徳商法なんじゃ無いかと思わなくも無いが、軽口一つであんな死に方はしたくはない。
「いいわ、それで許してあげる」
更なる保証金の上乗せに涼月は一先ず怒りを収めてくれた。
それにしても俺に好意があるんだろとちょっと冗談を言っただけでこの怒り、俺は涼月にどれだけ嫌われているんだ。
まあ、女に嫌われるのはいつものことだ。気にしてもしょうが無い。切り替えてビジネスを進めよう。
その後俺と涼月は簡単な打ち合わせを行い、涼月は大人しく学園から去っていってくれたのである。
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