第360話 嫌な官僚
「はい、大久先生は過労で倒れたようです。多分大丈夫だということですが、大事を取って明日精密検査をするそうです。
はい、今日は直帰させて貰います。
はい、はい、それでは失礼します」
俺は教頭への連絡を終えスマフォを仕舞う。
出来ると男は上司への報告を忘れない、これで俺の評価も少しは上がるだろうか。
「そういう訳で今日明日で検査を終わらせて欲しい」
俺は隣に立ってベットで眠る大久を見ている鈴鳴に言う。
確かにきゅっと気絶させたが、あれから結構時間が経つというのに一向に起きる様子がない。精神が消耗した影響なのか魔の影響なのか?
「全く急に来たかと思えば急な仕事を押しつける」
「暇よりはいいだろ。
それにちゃんとリターンもある」
「ギブアンドテイクがあなたの主義だったわね。何かしら?」
鈴鳴が期待するように言う。
「今この男を調べて対処法を確立しておけば、後日大勢の同じ症状の患者が発生したときに慌てなくて済むぞ」
今は一人一人だが、この現象が何かを切っ掛けにして全校生徒全員に一斉に起きないとは限らない。
例えば校内放送かなんかでぽろっと禁句を言ってしまうとか。
「今さらっと不吉な事言わなかった」
鈴鳴が驚いた顔で言う。
「商売繁盛で良かったじゃないか」
「どこがいいのよ!」
鈴鳴が怒ったように言い返してくる。
「これで上に己の優位性を十二分にアピール出来るぞ。イコール、待遇改善給与アップ権利拡大と交渉が出来るというもの。
上手く活用すればこれはチャンスだ」
「はあ~そういうことじゃないの。
人の不幸をチャンスとは思えないわ」
鈴鳴が俺に人でなしを見る目を向けてくる。
「お前が不幸にしたわけじゃ無いし、己の職務を果たした上で、ほんの少し利権拡大を求めて何が悪い」
清廉潔白もいいが、出来る奴が権利を持った方が全体の利益にも成る。
「私には割り切れないわ」
「いい人なだけじゃ人は救えないぜ」
いい医者だって治療費を取らなければ治療を続けられなくなる。
「分かっているから、あなたを認めているじゃない。
でも、そもそもそういう事態を起こさせないのが退魔官の腕の見せ所じゃないの?」
「魔の退治をする上で避けられないと判断したら、仕方が無いと割り切るのが退魔官の仕事だ」
俺が割り切り旋律士に魔の調律を命じる。
旋律士は道具と見なし、責任は使った俺が取る。
ヒーローは賞賛され、官僚は嫌われる。
つくづく嫌なポジションだ。
俺だって出来るなら放っておきたいが、放っておいてもダムが無限に水を溜められないように、いずれ限界が来る。自壊するほど溜まった負の感情に一気の呑まれたら大久以上の錯乱を起こし、下手すれば俺のように精神を壊す者も出るだろう。
多少の犠牲には目を瞑り出来るだけ早く解決するのが望ましいと五津府に報告して責任のお裾分けをしておくか。
まあどっちにしろ先延ばしはない、魔の正体を掴み速やかに処理する。
「ほんと漫画に出てくる嫌な官僚そのものね」
「なら漫画の主人公の如く犠牲は駄目だと反抗するか?」
漫画なら小を捨て大を取る官僚は粛正される運命。そして主人公は全てを救ってハッピーエンド大団円。
「私も狡い大人だから、命令には従わせて貰うわ」
命令だからやった。これほどの楽はないことが最近身に染みてきた。
責任を取る者は碌でなしじゃなければ勤まらない。
「明日また来るよ」
これで俺がここにいる用は無くなった。今から向かえば何とか待ち合わせに間に合うだろう。
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