第357話 悪徳教師
コンコン。ほぼノープランでノックをして体育準備室に入ると、都合が良いことに大久だけがいた。
大久はノートパソコンで何やら作業をしていているが、他の体育教師は授業か?
俺は体育準備室に入ると同時にさり気なく鍵を閉めておく。
余計な邪魔は入らせない。
「うんっノックなんて洒落たことするから誰かと思えば、お前か。
何の用だ?」
ノートパソコンから顔を上げた大久は眼鏡を掛けていた。
ジャージ、小太り、無精髭とオッサンを具現化したような外見。これでも若い頃は国体にも出たほどのバレー選手のスポーツマンだったらしいから、時の流れは残酷だ。
「既に知っていると思いますが、無実の罪を晴らす為に立ち会いに応じてくれる先生を探しているんですよ」
近付いていくと、チラッと見える画面には部活動を撮影したのか、バレー部の練習風景が映っている。自分しかいないことをいいことに盗撮画面を眺めてお楽しみ中だったか。
予想通りスケベ教師か、それなら心置きなく利用してやれる。
校長に俺に協力しないように釘を刺されているだろうが、自制が効かない奴ならうまく欲望を刺激してやれば踊ってくれる。
「ふん、残念だな。お前の味方になるような酔狂な奴はここにはいないぞ」
「そうでしょうね」
予想通りの台詞。ここからどう話を転がしていくかが腕の見せ所。スケベ教師なら女の子を紹介すると言えば釣れるか?
「俺を除いてはな」
えっ!? 餌を仕込む前に向こうから食い付いてきた。話が早くていいが、予想外に上手くいくと罠かと勘ぐってしまう。
「ありがとうございます」
ここは無邪気に喜んでおくかと、握手をしようと手を出した。
「おっと喜ぶのはまだ早いぞ。場合によってはだ」
大久は俺の握手を拒否したが、そうでなくっちゃな。
さあ悪徳教師よ、何が欲しいか言って見ろ。吐いたその強欲がお前の弱点になる。
「なるほどね。いいですよ、そこまで言ったんですから焦らさず条件を言ってください」
「そうしたいがな、だがここじゃまずいな。もう直ぐ他の教師も帰ってくる。どこか人気の無いところに行こう。
そうだな体育館の裏に先に行ってくれ、俺も間をおいてから行く」
これが女生徒からのお誘いなら青春と胸をときめかすところだが、オッサンと体育館裏で逢い引きとは悪夢だな。
しかしこの場で交渉しないことや、万が一にも一緒に歩いているところを誰からに見られないように配慮するきめ細かさ、ガサツなオッサンの見かけに油断すると足下を掬われるな。
「分かりました。先に行ってますので、すっぽかさないでくださいよ」
「ここまで話したんだ。腹は括っている」
「では」
俺は締めた鍵をまたこっそりと開けて外に出るのであった。
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