第352話 先んずれば人を制す
職員室に戻ると他の先生達は予想通り自分の担当科目の授業をしている為にほとんどいなかった。
これが校長達が会議室でふんぞり返っていられる理由。生徒と話をするには立ち合ってくれる先生を見付けないと行けないが、実際には交渉どころか会うことすらままならない。
たがチャンスが無いわけでも無い。
先生といえども一日中フルで授業を行っているわけじゃ無い。授業がない谷間があり、昼休みもある。その時がアプローチできる数少ないチャンスだが、校長派の目が光る職員室で口説いたところで色よい返事が貰える可能性は低いだろう。
そうなるとアイドルの出待ちみたいな真似をして、授業が終わり教室から出て来たら職員室に戻るまでの間に口説き落とすのも手だが、生徒達の前でそんなマネをして噂になれば折角見付けた協力者にも嘉多先生同様に急な出張が入れられるかも知れない。
正直時間のロスは痛いが放課後まで待って学外で会った方が成功率は高いかもしれない。ただこの問題はチャンスが今日の放課後一回きり、実質一人に狙い撃ちしたギャンブルになること。放課後までに吟味した人選とよほどの説得材料を用意する必要がある。
さもなくば、ごちゃごちゃ面倒なことをしないで、稼いだ三日間で事件解決を目指すという手もある。
何にせよ、踏ん張ってあの場でのクビを免れたことで無数の選択肢が生まれるし、昨日仕込んだ策の成果を見ることも出来る。
事件解決の為だったが、今朝のトラブル解決にも利用できる。
先んずれば人を制すとは良く言ったものだ。
午前中はほとんど吊し上げ会議で潰れたので、職員室で調べ物をしていると程なくして昼休みとなった。
終業のチャイムと同時に食堂に友達と連れだって行く生徒や教室で机を並べて友達同士弁当を食べようとする生徒などと一日の中で一番学園が姦しくなる。
俺はその喧噪から遠ざかるように、一人屋上に出た。
俺は理事長からマスターキーを貰っているので入れたが、本来は立ち入り禁止なので昼休みといえど生徒の姿はない。
街からの喧騒が僅かに風に乗って聞こえるが学園の中に比べれば静かなもの。青空が拡がり眼下には街が広がる絶好のスポットで俺は買っておいた昼食を取る。
コンビニの御握りだが、一人高見で下界を見下ろして食すると一味違う。権力者が高いところに登りたがる気持ちも分かるというもの。
食べ終わっても俺は一人屋上に残り続け山の緑を無心で眺めている。
何に感化されたんだか、あるがままにと木を見て木を感じ木と同調を試みる。
ただ見てただ感じることの何と難しいこと、俺には思考を捨てることが出来ないと諦め掛けた頃屋上に通じるドアが開けられる音で我に返った。
開いた入口より長い髪をポニーテールにした女性が入ってきた。
瓜実型ですらりと風を切るように歩く姿は武者を思わせる
「こんにちは。柔道部顧問白前静香先生。
お待ちしていました」
俺は笑顔で腰を折って挨拶をするのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます