第350話 ハッタリと思わせぶり
「そんなことしたら、こちらも手段を選んでいられなくなりますがいいのですか?」
俺は胸を張り自信たっぷりに言い切った。
一呼吸して場の注目が俺に集まったのを確認する。
「俺が誰の意向を受けて来たのかあなた方は知っているはずです」
俺は再度自信たっぷりに言い放ちコの字に囲んだ連中を睥睨する。
俺が理事長の意向を受けてこの学園に来たのは真実であり周知の事実。俺は彼等にそれを思い出させ深読みさせる。
「大の大人それも若人を導くのが仕事の教師が学生である俺を吊し上げを行い、捏造した罪を擦り付けようとするなら、此方も覚悟が決まるというものですよ」
「どういう意味だ」
校長が先頭を切って俺に噛みついてきた。
ならば標的は校長だ。
「それは自分の胸に手を当てて考えてみるのですね」
それっぽい思わせぶりをしているだけで、悪いが俺だって知らねえよ。
俺は理事長の依頼で行方不明となった女子生徒の調査に来ただけなので校長以下の不正とか弱みとか調べたわけじゃない。女生徒行方不明に関係していそうな人物の基本情報しか知らない。
だから此奴等が裏でどんな後ろめたいことをしているかなんて全く知らない。
つまりこれは、相手が降りなかったら負けは確定のブタで勝負を挑むポーカー。
全くのハッタリ勝負。
情報を元に勝てる策で挑むのが信条の俺が100%ハッタリ勝負をするなんて屈辱だぜ。
もし此奴等が清廉潔白の人物だったらハッタリにもならなかったであろう。
だがまあ権力闘争に明け暮れるような連中だ、後ろ暗いことの一つや二つは絶対にしている。
そう信じろ、そう決めつけろ。
俺は一片の疑いなく校長を睨み付ける。
「苦し紛れにデマを言うと益々心証を悪くするぞ」
「これ以上どう悪くなると言うんです?」
「ハッタリだな。
ハッタリじゃないというなら言ってみろ」
そう言われても、あると信じているだけで知らないものを言うことは出来ない。
「俺がただの学生だから調べられるわけないと舐めているようだが。
俺が誰の意向を受けてきたかもう忘れたのか?
俺には無くてもバックにはあると思わないのか?
いよいよもって最後の詰めの為に俺が出張ってきたと思わないのか?」
ぐっと目力を込めてお前の事は知っているぞとばかりに校長の目を覗き込む。
「そこまで言うならお前こそ言ってみろっ」
う~ん、もしかして校長潔癖? 横領の一つや二つ位していると思ったが。
だがまだまだオープンカードには早い。
「迂闊に敵に手の内を晒すわけ無いだろ。
公表するならこんな敵しかいない密室でなく、もっと効果的な場所で発表するさ。
例えば週刊誌とか」
押すばかりじゃないフッと力を抜いて視線を校長から外して遠くを見たりする。
「そんなことをすれば学園のブランドがどれだけ毀損するか分かっているのか?
ここを卒業した生徒達にも影響があるんだぞ」
勝った。
ガッツポーズして小躍りしたくなるほどに勝った、勝利、ビクトリー。
本当に潔白ならやってみろと言うべきだったものを、そうすれば俺は詰みだった。だがもうこうなれば攻守逆転、落としどころは俺が決められる。
「辞めさせられる俺に何の関係が?
そもそも、来たばかりでこの学園に何の愛着も無い俺に泣き落としが通じると思っているのか? だったらおめでたいな」
「きっきさつまままままっま。
ふう~ふう~」
一瞬で顔を真っ赤に染めて怒りを爆発しそうになった校長だが、深呼吸をして何とか最後の一線は守ったようだ。
「ならここの経営者である理事長だってただでは済まないぞ」
「やぶれかぶれの死なば諸共という言葉知ってますか?
理事長だって権力闘争に負ければ追い出されるんだ、関係無いだろ」
まああの人は学園を愛し生徒のことを思っているので、校長の言う通り卒業生や在校生への評価が低下することには心を痛めるかもな。
そうならない為にもここで俺がハッタリを押し通して見せるしかない。
「貴様っ」
校長が歯軋りをしつつ俺を睨み付けてくるが、そんなに後ろ暗いことしてんの?
時間があったら調べてみる価値があるかもな。
「だからこそ人を裁くときには両者が納得する公平さがいるのですよ。だが残念ながらこの場にはないようですね。
育てた恨みのしっぺ返し味わってみます?」
校長は俺を睨み付けたままに固まっている。
何か覚悟を決めようとしているな。
「君は、ならどうすれば納得できると言うんだい?」
校長が覚悟を決める前に今まで静観していた教頭が口を開いた。
「ですから俺にも弁明の機会を与えて下さい。
皆さん、この場で俺が何を言っても納得しないでしょうから、まずは俺に証拠を集める時間を下さい。その上で堂々と議論をしようじゃありませんか」
欲は搔かない、兎に角時間が稼げれば御の字と筋が通っているまっとうな提案を俺はした。
「分かった。弁明の機会を与えよう」
「教頭、勝手なことを」
固まっていた校長が勝手に話を進めた教頭に食ってかかった。
「校長、あなたに野心があるでしょうが学園がなくなったら意味が無いでしょう。この少子化の時代悪い噂は極力避けるべきです」
まあ校長だけで無くこの人だって学園が無くなれば困る。校長の暴走を見てられなくなって割って入ってきたというところで、決して俺を助けるためじゃない。
「しかし・・・」
「但し君も確約してくれ、弁明の機会を与えた上での処分なら大人しく学園を去ると」
この教頭抜け目がないな。流石地獄の教頭と揶揄される苦労人の中間管理職教頭、先生方の中では一番手強いかも知れないな。
「ええ、俺だって理事長が愛する学園を闇雲に貶めたくないですからね」
教頭の提案は無理なく筋も通っている。これを拒否したら俺の主張する正当性はなくなってしまう。
「良し。なら弁明の機会だが・・・」
「明日の放課後だ」
「野上さん」
「まだ午前中だ。一日以上与えれば十分だろう。私も暇じゃないんだよ」
一週間くらいは時間を稼いでやろうかと思ったが、ビジネスマンだけにだらだらと引き延ばしは許さないか。
「それでは時間がなさ過ぎます。最低一週間は下さい」
「はっ馬鹿は休み休みいなさい。所詮学生だから社会の厳しさは知らないだろうが、世の中はそんなに甘くない。
君の為にもアドバイスしておこう、自分が正しいと思うなら迅速に証明しなさい」
急ぎすぎは拙速となって墓穴を掘ることになるぜ。
これでも伏魔殿を渡り歩いているんだ、中小企業の社長とだって潜った修羅場なら引けを取らない。
「肝に銘じておきますよ。なら三日で手を打ちましょう。その代わり証言をしてくれる生徒を探す為に校内で私に自由に行動するのを許可して下さい」
これで担当するクラス以外の生徒にも堂々と話を聞けるようになり、本命の仕事がやりやすくなる。
「野上さん、それが妥当かと」
教頭が俺の援護に回ってくれるのはありがたい。
「分かりました。明後日の放課後だ」
三日と言って俺は明日明後日明明後日の腹づもりだったが、しれっと今日明日明後日の三日間にしやがった。
だがこれ以上はやぶ蛇ここらが妥協点と言い返しはしない。
「それと果無君、此方からも条件を一つ付けさせて貰う。生徒に一対一で会うのは辞めて貰おう。話をするなら必ず他の先生を同伴させること」
「なぜです?」
「話を聞く限り一対一で会って君が脅さないとも限らないからな」
流石教頭本当に狸だな。これで俺はまず教諭の中から協力者を見付けないと行けなくなるが、校長に逆らってまで俺に味方する教諭はいるのか?
いる。心当たりが一人いるか。
「まあ信用が無いのはしょうが無いですね。分かりました」
渋々と言った風に俺は条件を呑んだ。
「よし。解散。明後日の放課後もう一度倫理委員会を開く。
果無君は退出しなさい」
残ったメンバーでどんな陰謀を話し合うかしらないが、俺も時間は無駄に出来ない。
さっさと退出するのであった。
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