第338話 部活見学

「果無君、今日一日授業を見学してどうだった? 明日からはあなたにやって貰うことになるけど大丈夫?」

 放課後の職員室、俺の担当教諭の嘉多が椅子に座って俺を見上げながら尋ねてくる。このシチュエーション、昔職員室に呼び出された時を思い出す。今日一付き添って冗談の一つも言わなかった嘉多、躰付きは成熟した女性のものだが服装はキッチリとした紺系のスーツで隙が無く真面目で堅い。

 教育実習生一日目は自分が担当することになる授業の見学と各クラスへの顔見せで終わった。どのクラスも栗林みたいな奴はいたが、初回の栗林の反省を全く生かさないで同じような対応をした。そんな俺を最初こそ注意していたが、最後の方は嘉多も何も言わなくなっていた。俺は問題児となるのは確実で自己保身の為距離を取ったかな? 今日の放課後にも校長にご注進しそうだ。

 ちなみに嘉多はじいさんが用意した協力員じゃ無い。まあ済まないと思うが、行方不明となった生徒を助ける為と我慢して貰おう。

 それよりも俺だ。いよいよ明日からは授業か~。

 俺の担当科目は数学。昔から人に教えるのは苦手だ。俺が理解したように教えて他人がなんで理解出来ないのか理解出来ない。人一倍イライラが降り積もる俺は教師には向かないタイプ。真面目にやればストレスで胃に穴が開いてしまうが、情熱を殺し事務的にマニュアル通りに淡々と流していけば何とかなるだろ。

「大丈夫です」

 仕事なら大丈夫じゃ無くてもやるしかない。

「いい返事ですね、期待してますよ」

 嘉多は事務的に平淡に淡々と台本の台詞のように言う。

「ではこれから部活動見学に行きましょう。今日明日見学して、短い期間ですがあなたにも部の担当をして貰います。教師になる上で必要な経験です」

「はい」

 残業代が出来ないボランティアでありながら何か事故があれば責任は発生する、滅私奉公の極地。冗談じゃ無いがこれもまたやるしかない。

 四人の行方不明者の内訳は、柔道部、バレー部、新聞部、帰宅部となっていて、見事にバラバラである。共通項は無く部活は行方不明と関係無いように見える。

 部活に探りを入れる必要は無さそうだが、学生生活において多くの時間を共有し共感し合うのも部活仲間であることも事実。それを考慮すると何か事情を知っている人間が部活内にいる可能性は高い。そう考えると各部の情報通と接触したいところではある。

 がっ可能なのか? 

 各部に接触して情報通を見つけ出し親しくなって情報を貰う。情報通を見つけ出すくらいなら出来そうだが親しくなってのところが難しい。俺がイケメンなら兎も角この短期間に女子に心を開いて貰うなんて、普通にしていたら絶対無理のインポッシブル。

 だったら俺らしいやり方でやるしか無い、つまり押して脅して金で宥める。

 幸いヘイトは順調に集めている、上手くいけば向こうから嫌がらせしてくるかもな。嫌われて始まる出会いを大事にしないとな。

 ケツはじいさんが持ってくれるだろうし、所詮短期研修制遠慮無く行こう。

「それじゃあ行きましょうか」

 嘉多が立ち上がり俺もその後ろを付いていこうとするが、最後にぐるっと職員室を見渡す。

 俺が学生時代にも見たような放課後の職員室。

 先生達は明日の授業の用意や小テストの採点などをしている。

 何処にでもありそうな日常の風景。

 しかし、感じるこの違和感はなんだ?

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