第336話 今までのあらすじと始まり
黒田を捕まえ冤罪を晴らし無事退魔官に復帰できた俺だが、それは果たして良かったのかと疑問呈したくなってくる。
幸せって何だろう?
事件後はまず如月さんと共に派閥の長である五津府に迷惑掛けたことに関して詫びを入れた。五津府が俺に対して何をしてくれたか俺は知らないが如月さん曰く色々と出来る範囲で便宜は図ってくれていたらしい。
裏を返せばいつでも切り捨てるつもりだったということだが、悲しいけど宮仕えぐっと不満を呑み込まなければならない。
上に頭を下げつつ事情を話し山のような報告書と関係部署への書類を処理して目蔵を約束通り牢屋から出した。考えてみれば此奴も俺が冤罪で捕まればずっと牢屋に入れられていたわけか、随分と分の悪い賭に出て見事勝った訳か。悪党に成り切れないヘタレかと思えば嗅覚鋭い奴なのかもな。
一応口止めをしつつ無罪放免させた。これからは社会の役に立ちたいとか何かあれば協力しますとか、折角縁が切れたのに縁を結ぼうとするなんて、嗅覚が鋭いと思ったのは気のせいのようだ。
約束をキッチリ果たしてスッキリしてキッチリ報復として大野を牢屋に放り込んだ。取引をしようと色々喚いていたが、勝負が決まってからの寝返りは価値が無いと知れ。
ちょっとした私事を片付けつつも公務の山を処理していく。
黒田の罪の裏付け調査をしつつ、逃走した殻と秋津の指名手配を行う。まあ警察に捕まるような奴らだとは思わないが牽制くらいには成るし、本命は警察の金で賞金首にしたこと。欲に駆られた人間は怖い、ジャンヌへいい報告が出来る日も遠くは無いだろう。
取り敢えず緊急の仕事は片付いてほっと一息付けるかと思えば賀田が余計な仕事を持ち込んできやがった。しかもご丁寧に断れないようにキッチリ嵌めてくる。
おかげで俺は依頼をこなしつつ残務処理をこなす日々になった。
昔から出来る男には仕事が集まるというが、これは集まり過ぎじゃ無いか?
「退魔官果無過労で死す」なんて打ち切り漫画の最終回のタイトルが浮かんでしまう。
事件の捜査をしつつ、黒田に従った警官達についての調査を平行して行う。
まず黒田子飼いの部下なのかただ上官の命令なので従っていたのかの見極めてから五津府にまとめて献上する。警察内の派閥政治に利用するもよし、罪を不問にすることで忠実な手駒を増やすも良し。五津府なら上手く処理するだろう。
これで五津府の俺への評価が上がり、俺が直接処分することで買う恨みを回避できると俺にとっても一石二鳥。
だがジャンヌを犯そうとした連中だけは、警察内部の政治力学や直接恨みを買うことなど知ったことか、俺がこの手できっちり片を付ける。
本当なら強姦未遂で刑務所に入れてやりたいが事件の性質上とジャンヌの名誉があるので裁判沙汰には出来ない。
だが復讐の方法など幾らでもある、雨女に依頼するのもいいかもな。それなら罪に等しい罰を受ける。
どっちにしろこの事後処理の山を片付けてからのお楽しみであり、これが俺の最後の職務倫理。もしタイムリミットとした事後処理が終わるまでに、自首してきたら俺もきっぱり諦めると決めた。そこまでは復讐しない。
だがもし俺の最後のチャンスすらフイにするなら遠慮はいらないよな?
俺のキャパなど考えずに仕事は待ってくれない。行方不明事件の方も動き出し秘密の捜査本部を立ち上げ、またしても五津布に借りが出来る。
返しても返して借金が貯まっていく。
波柴に関しては部下である黒田の不始末について責め立て報酬の代わりに詫び料を貰い、八咫鏡の経営はかなり潤った。
まあこれだけだとなんなので、波柴の馬鹿息子については俺が掴んだ黒田が過去に揉み消した馬鹿息子の罪を波柴に教えてあげた。このまま何も無かったことにして、馬鹿息子が罪を償って目覚めるまで待つなら罪は問わないが、ジャンヌの力等で目覚めさせるなら刑務所で罪を償って貰うと宣告した。この取引の結果、波柴はこの案件から完全に手を引くと確約した。
ふう~、これで一先ず警察からはセウを守れた。だが彼女はこれからも悪意を裁いていく。リンチを認めない法治国家としていずれまた警察の手が伸びることもあるだろうが、その時にまた考えよう。
兎に角現状はセウについては放置するのがベスト。下手に俺から連絡を取ろうと能動的に動けば当然察知され世界救済委員会も動く。今はこれでいい。
くせる達についてはどうなったのか不明、だがまあ裏切りも契約不履行もしていないはず。あのままうまくやれば石皮音を助けて、彼方も万々歳のはず。借りも貸しも無く、次に会えば後ろめたいこと無く命の遣り取りが出来るだろう。下らないと思うだろうが、自分に非は無いと信じ切れる心は土壇場で力を発揮する。
P.Tに関してもきっちり報酬を支払い、いいビジネスで終了・・・したと思っている。
過労で倒れる寸前まで駆けずり回り、なんとか急ぎの案件を片付けたところでケジメは付けるべきだと事件解決の祝賀会を俺は開いた。
一人で生きてきたしこれからも一人で生きていくだろう俺だが、助けてくれた人達を切り捨ててまで孤高を気取る気もない。
時雨、ジャンヌ、キョウ、ユリ。
恋人友達なんていう甘く曖昧な関係じゃ無い仕事仲間以上の仲間。
如月さん。
仕事上の上司以上の上司であり利で無く忠義を示すべき価値がある。
影狩に大原。
仕事上の部下というより八咫鏡という船に乗る運命共同体。
みんなマージナルラインまで見捨てないでいてくれたことに感謝する。
そして天見。
殻とは決着が付かず乃払膜は俺が倒してしまった。何かこう俺の所為かな~って感じで帰る場所を失ってしまった。
申し訳ない。
今後については色々と後日相談ということで、今は酒と料理を楽しんでくれ。
痛い出費ではあったが、高級ホテルの料理はみんな楽しんでくれたようだし一人一芸を見せて貰ったし良しとしよう。
俺も柄にも無く少し酔った。少し足裏がふわふわする。
この勢いに乗って部屋を取ってあるんだとホテルのキーを見せて時雨と一晩共にすることがあるわけないので俺は一人寂しく帰路についた。
少々の千鳥足で駅から歩いてくると我がアパートの前に老人がいた。
杖こそ持っているが腰は真っ直ぐ伸びてしゃんとしている。体は壮健のようだが深夜に一人徘徊する老人には万が一にも絡まれたくない。そっとこの場を離れて警察に連絡をしておくか。
「何処に行く若者」
ちっ立ち去る前に目を付けられた。
「小腹が少々空いたからコンビニにでも行こうかと思いまして」
何が切っ掛けになるか分からないんだ刺激してはいけない礼儀正しく下手に対応する。そっとフェードアウトして速攻警察に連絡。
「そうか、なら儂もご一緒しようかのう~。儂も少々つまみが欲しい」
飄々と言いやがってボケ老人の勘違いじゃ無い、明確に目的は俺か。
「誰だじいさん?」
徘徊老人では無いようだが、俺の知り合いでも無い。
もう直ぐ日付が変わる時間に訪問される心当たりも無い。
上級国民からの新手か?
今のところ老人から悪意は感じない。だが油断は出来ない。俺も護衛がいなければ外をおちおち歩けない身分になったのかもな。
「友人の五津府からの紹介での」
それを先に言え、俺は体の警戒を解き、別のことに対しての警戒を高める。
「少しばかり老人に付き合ってくれないかの。なんなら近くのファミレスでもいいぞ。驕ってやるぞ」
五津府の紹介とはいえ得体の知れないじいさんを家に入れる勇気の無い俺としては渡りに船。
先の件でも分かるが五津府が紹介するのは無害な善人じゃ無い、油断すれば尻の毛まで抜かれるような連中だが御すれば利益にはなる、リスク付きのチャンス。
なんかな~俺そこまでして上り詰めたい奴だと五津府には思われているんだろうな。勘違いもいいところ、俺は時雨を手に入れる為に頑張っているに過ぎない恋に恋する純情青年だというのに。
「まずはコンビニに行く。深夜とはいえ敬老の精神でツマミくらいは用意しよう」
敢えて部屋に招き入れる。発想を変えれば人目のあるファミレスより人目の無い部屋の中の方が都合が良いかも知れない。何もしても密室での出来事であり隠蔽もし易い。
「そうかそうか、ならご一緒しよう」
「言ってくれれば買ってきてやるぞ」
ヤサを掴まれているんだ逃げやしない。嫌なことは先延ばしにしないのが俺だ。
「いやいやそう老人を邪険にするものじゃ無いぞ。一緒に月夜の散歩、語り合うのも悪くないぞ」
「そうか」
こうして俺は時雨とホテルで一夜を過ごすどころか老人と一夜を過ごしそうになるのであった。
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