第335話 ファーストコンタクト
「うわっもてなさそう、キモッ」
「栗林さん、口を慎みなさい」
ギャルっぽい少女が発した露骨すぎる感想に嘉多が注意してくれる。
まあ、見た目がイケメンで無く陰キャラっぽいのは認めよう。それにこの程度で傷付くほどヤワじゃ無い。
だが開始数分でこの教室における敵が分かった気がする。
経験から分かる。
今後この雌餓鬼への対応を一歩間違えるとムキになって此方を攻撃してくるようになるだろう。嘉多が言う通りなんとか御さないといけないが、利害でなく感情で動く雌餓鬼の相手は苦手だ。
頭でシミュレートするんじゃ無くて、自然なノリでこういうのと相手できる奴が羨ましい。多分西村なら上手くあしらって人気者になれるんだろうな。俺は普通にしていれば拗れて拗れて嫌われ者になれる。
はあ~気が重い。なんで俺がこんな雌餓鬼共の相手をしなくてはならない。
我が道を行く俺にとって人を導く教師なんぞ最も成りたくない職業だ。
「は~い」
一応栗林は引っ込んだが、此方をちらりと見た目は糞餓鬼そのものだったな。どうやって俺を弄ってやろうか、周りにいる似たような雌餓鬼共と目配せし合っている。
「水永さん」
「はい」
嘉多に呼ばれ真面目そうな少女が立ち上がる。
この娘は時雨に通じる気品を感じる。こんな娘ばっかりだったら教師も楽だろうな。
「彼女が委員長です。何かあったら彼女に言ってください」
「分かりました。
色々と迷惑を掛けるかもしれないけど、よろしくお願いします」
礼儀正しい娘には礼儀正しく対応しておけば問題ないだろ。
「いっいえ、こちらこそよろしくお願いします」
男に慣れていないのか俺が嫌なのか俯き加減で返事をしてくる。
一昔前の女子校の生徒みたい雰囲気だな。それでも彼女が一番話しやすそうではある。今後の為にもここでもう一声掛けて彼女とは打ち解けておきたい。
「質問で~す。
先生は彼女いますか?」
ちっ折角の機会を栗林が横から割り込んで潰してくれる。
いると言えば見栄張ってと言い、いないと言えばやっぱりと言われる。どう答えても俺を笑いものにする悪魔の質問。
「多分君が想像している通りですよ」
「きゃはっ格好付けて誤魔化すって、じゃあ、いないんだ。かっわいそ~。
先生今ならあたしがなってあげてもいいですよ~」
栗林が唇に指を当て此方を蠱惑的に見上げ猫なで声で言う。
俺を完全に女と縁が無い男と思って小馬鹿にして見下している。こうされて俺がしどろもどるにでもなると期待しているんだろうな。ここで負けたらこれからこの雌餓鬼は俺を見下し何かと馬鹿にしてくるだろう。
指導すべき先輩教師嘉多も俺を見守っているだけで助け船を出す気はないようだ。俺の成長を期待しているのか、関わりたくないのか。
どう思われようが構わないし、相手にしたくないが、そうはいかないのが仕事。
欲しいのは取り繕ってない生の剥き出し女子高生、懐に飛び込んで行く強烈なカウンターがいる。
「ほう~それは光栄だな。それで幾らだ?」
「幾ら?」
栗林が小首を傾げる。
「先生もそんなことで舞い上がるほど純情じゃ無い、どうせ金を取るんだろ? 後で揉めないように最初に提示しておいてくれ」
小粋なアメリカンジョークを語るように軽くテンポのいいリズムで言う。
横で喜多先生が真っ青になっているが、正直はこれが一番手っ取り早くていい。金でこの雌餓鬼を手懐けられるなら楽なもの必要経費で落ちるしな。
「ウチがエンコーでもしているような言い草」
栗林はむっとした表情で睨み付けてくる。
「ならタダなのか?」
「だから」
「ならお断りだな」
「はあ~、ウチとタダで付き合えて何が不満なのよ」
栗林はその可愛い容姿から男に振られたことが無いのか怒気を露わにした。
まだまだ甘い小娘だな、賀田ならここで妖艶に笑って見せただろう。
「タダより怖いものはなし。君子危うきに近寄らずだ。
つまり美人局だろ?」
「マジギレ、ウチにそんな舐めた態度とってどうなるか覚悟してるんでしょうね」
美人系だけに凄みが出る顔で俺を睨んでくるが、子猫が睨んでくるようにしか俺には感じない。随分と俺も擦れたもんだ。
「どうなるんだ?」
「教育委員会にチクってやる。そうしたらあんた教師になれないんじゃない。
ワビいれるなら今のうちだよ」
栗林が伝家の宝刀を抜いて勝ち誇った顔を向けてくる。その勝ち誇った顔を見て思ってしまう、
「お前可愛いな~」
色々な意味であまりに可愛くて声に出してしまった。
「はあ~?」
「からかって悪かったな。
お前、そんなに俺と付き合いたいのか。でもな~教師と生徒じゃまずいんだ。せめて教育実習の期間が終わってからアタックしてくれ。そしたら先生も少しは真面目に考えるぞ」
今までの態度を改め誠実な態度で応えた。
「あんた頭湧いてんじゃないの?」
「そんな俺に惚れたんだろ」
「だから、今までのあーしの何処を見ればそういう発想すんの?」
「好きな人にちょっかいを出したくなるって思春期にありがちな感情だろ。
ほんとかっわいいな~お前」
「なっななっ」
俺の返しに栗林は顔を真っ赤にして声を詰まらせた。
「はいはい、そこまでにしなさい。
果無さん、舐められたくない気持ちも分かりますけどやり過ぎです。そんなことでは教師を続けられませんよ」
ここでフォローが入った。てっきり問題を起こしそうな俺を切り捨てるかと思ったが、一応俺も指導する気なのか真面目な人だ。
「すいませんでした」
俺は素直に嘉多に頭を下げた。真面目なこの人にあんまり迷惑を掛けたくはないが、これからもっと迷惑を掛けるだろう。だったらせめて誤るくらいはしておこう。
「今日のHRは終わりです。
明日からは果無さんにやって貰いますから、水永さんと協力するように」
「はい」
こうして俺の教育実習初日HRは終了したが、仕事はこれからが本番・・・。
はあ~なんでこんな仕事引き受けたんだろうな俺?
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