第334話 教育実習生

 何処にでもありそうな高校の教室内。

 朝の始業時間前、登校してきた生徒達は授業が始まる僅かな時間自分の席でだらけたり友達としゃべっていたりしている。

「は~だっり」

 朝日に輝く髪をふわっとウェーブにした少女は緩めたネクタイから胸元を開けて風を入れている。少し上から覗けばその膨らんだ果実が見えそうである。

 ここは中高一貫の音畔女学院、昔は色々と校則が厳しかったが小子化等の最近の風潮を受けて校則は緩くなってきて、この少女は化粧やピアスなんかしていて今風のギャルである。

「栗林さん。だらしないわよ」

 碧髪をショートカットにした如何にも真面目そうな少女が注意する。

 この少女の方は昔ながらの伝統ある女子校にいそうな少女で服装に乱れなくキッチリしている。

「いいじゃないこのくらい。かったいね~委員長は」

「委員長ですから」

 言い返されてもしれっと切り返す。まじめだけじゃ無い強さを感じさせる。

 朝の教室で少女達が可愛く囀り合っていると教室のドアが開けられ少しきつそうな30代前半くらいの女性が青年を伴って入ってきた。

 教室でまだざわついていた女生徒達も青年という異物の侵入を気にしつつも一斉に席に着き出した。

「皆さん席に着きましたね。

 そして注意するまでも無く静かですね。いつもこうなら楽なんですけど」

 この女性こと嘉多教師は教室を一旦見渡し、女生徒達が気になって仕方ないことを承知で一呼吸間を取った。 

「突然ですが我が校も教育実習生を実験的に受け入れることになりました」

「「「ええっ~~」」」

 全国優勝した合唱部のようにクラスの女子の声は揃っていた。

「うわっ初めて見た」

「ってことは大学生なの」

「イケメンじゃ無いのか残念~」

 一斉にざわつく女生徒達。

 鼠を見る猫のような好奇の目に晒されファーストインプレッションは芳しくないのを感じる。

「静かにしなさいっ。

 一時しか持たないのですか~まったく」

 嘉多は一喝溜息を付く。

「御免なさいね。でもこの年頃の女子なんてこんなものよ、教師になるつもりならこの程度は御せられるようにしなさいね」

 実感の籠もった先輩の忠告であった。

 この人はその為に生徒と一線を引く為にスーツという鎧を纏って堅い自分を演出しているのだろう。

「それでは自己紹介をお願いします」

 嘉多に言われ一歩前に出る。

「帝都大学から来ました、果無 迫です。

 担当科目は数学です。

 短い期間だとは思いますが、よろしくお願いします」

 こうして俺の気が重い教育実習生生活が始まったのであった。


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