第315話 狭間の駅

 ガタンゴトンと電車が揺れる。

 ガタンゴトンという揺れは最高の揺り籠。

 座っている人だけで無く立っている人すら幸せに微睡む。

 都会からベットタウンに向かう電車。

 都会に向かうのと逆に一駅ごとに人が減っていく。

 一人の傘を持った大学生くらいの女がいる。

 雨が降り出した後の電車内は傘や濡れた服から雨が蒸発していきサウナのよう。

 もわっとする車内において傘を持った女は身じろぎせずにじっと立っている。

 スマフォを弄るわけでも音楽を聞くわけでも無く焦点の合わない目を開いているだけ。

 だがその異質さも微睡んでいるのと湿気が籠もった不快さで埋没している。

 一駅ごとに人が減っていく。

 だんだん人が減っていき窓から見える明かりも消えていき黒く鏡のようになっていく。

 人が減っていき益々女に注目するものは減っていき、認識が薄れるように存在が薄れていく。

 もう直ぐ山間の終点という頃には女は陽炎のように薄らいでいく。

 すーーと姿が掻き消えていき、電車が止まる。

 車内アナウンスは無い。

 無言で電車は止まり、無言でドアが開く。

 女は初めて自ら行動を起こし電車を降りれば、電車のドアは閉まって去って行く。

 駅には駅員はいなく電灯だけが付いている無人駅。

 ひとひと雨が降っている。

 この駅以外に明かりは見えず、薄闇に消えていく山道が一本駅から延びているのみ。

 こんな山間の無人駅に取り残されたというのに女に不安は無いただ焦点の合わない目で遠くを見ながら傘を差して歩き出す。

 

 降り立ったホームは女も去り閑散としている。

 しとしと雨に濡れる古びた駅名標を見ればこの路線上には存在しない駅名だった。

 現実世界と魂源の隙間に存在する狭間の世界。迂闊に迷い込めば二度と現実世界には帰れない。

 踏み込んでしまった以上やり遂げるしか無い。

 俺もまた女の後を付けて山道に踏み出すのであった。


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