第271話 地獄に墜ちる

 22階は素通り。流石にゲームのように各階毎に中ボスがいるようなことはなかった。

 23階について確信する、ここだ。

 目の前にある鋼鉄の扉を一枚隔てた向こう側からやばいほどの赤を感じて見える鋼鉄の扉とダブって赤熱しているように見える。

「さてと」

 俺は扉を熱くないと分かってはいるが恐る恐る押してみる。空いてなければ用意したC4で爆破するだけのこと、ただの確認作業のつもりだったが押せば鋼鉄の扉は向こう側に開いていく。

 P.Tも少しは仕事をするじゃ無いか。

「行くぞくせる」

「分かった」

 くせるが何を感じているか分からないが、変わらない表情ながらも緊張しているのが伝わってくる。

 くせるですら警戒するもの、そんなもの俺如きでどうこうなるか恐れていてもしょうが無いと勢いを付けて一気に扉を開け放てば、世界は赤く赫く染まっていた。


 天井や壁は赤黒く茹だったように泡立っている。

 プクプク吐き出されていく赤黒い粒。

 水飴のように煮詰められた粒は触れれば悪意がどろっと肌に纏わり付く

 そんな油絵みたいな世界の中心には水彩画のような美しき少女が鎮座する。


 鎖で吊された虜囚の如く両手を上げて目を瞑る。

 一糸纏わぬ肢体は脇すら晒して美しく

 恥じるものなどないとばかりにその肢体を赫い輪の後光で照らす。

 大気に漂うおぞましき赤黒い粒は渦を描いてその赫い輪に吸い込まれていく。

 ああ、世界に充満する人の悪意を浄化する女神。

 その尊さに心打たれて頭が下がり視線が下る。

 女神の御御足からは赫い汗が湧き出て床に滴り落ていく。

 ぽたぽた溜まっていく赫は毛細管現象のように均一に

 ゆっくりと川のように床を流れていく。

 流れゆく赫に呑まれた白衣の男達は床で呻いて許しを請う。


 彼女は神。

 だが優しい豊穣の女神では無い。

 悪意に塗れた人を罰する荒ぶる神。

 ここは罪人に罰を科す地獄だ。


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