第258話 自由人
流石そこそこのホテル、一流のホテルならこうはいかないが俺は何とかスィートルームがある最上階まで忍び込めた。
廊下の角から覗けばスィートルームのドアの前には辺りを警戒するスーツ姿の見張り番が一人立っている。火災報知器でも鳴らすしか無いかと思っていたが、日頃の俺の運のなさが嘘のような都合の良い展開。
普通こんな事をすれば怪しいと言っているようなものだが、彼が正規の警官なら話が違ってくる。
要人の護衛をしているという体裁を整えている。
中には要人がいると宣言している。
こんな街に都合良く他の要人がいるとは思えない。
つまりジャンヌだ。
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俺はまた都合の良い推理をしていないか?
心が壊れた人間の分際で人並みに自分の所為でジャンヌが危機に陥っているという責任から解放されたいと願ってないか?
間違っていてもいいから、さっさとやるだけやっとという自己満足を得ようと都合の良い断片のみを切り取って中にジャンヌがいると捏造して己を騙してないかないか?
そもそも俺がそんな運がいいわけが無い。なんなんだこの都合の良い展開は罠でもなければ信じられない。
罠が何だ、それでも行くという。罠でもまたしても黒幕の方が上手だったから仕方ないと言い訳出来るからな。
俺は結果でなく言い訳を求めているだけの弱い人間だった。
こういう時普通の人間なら、叱咤してくれる恋人や励ます親友が傍にいるのだろうが生憎と俺の傍にはいない。
俺はただ一人。
選択も結果を掴むのも俺一人。
今更だろ。
俺はいつも一人で生き一人で選択し一人で結果を掴んできた。
自らで由とする、自由人。
責任如きで潰れるような軟弱者じゃない。
つまり今までの推理には根拠がある妄想じゃない。
少々負けが込んできて弱気になっていたようだ。
「ふう~」
深呼吸を一つ。
気分を変えて視点を変える。
これはジャンヌが持つ天運とは考えられないか?
天が愛する女を助けるために俺を引き寄せた。
それなら納得もいくが、つまりジャンヌは俺が助けに入らなければ成らない状況に陥っていることになる。
チリッと心が焦げた。
フラットだフラットに行こう、ガチガチの合理主義の俺が運など信じて焦ってどうする。
こういう時こそ理詰めで行け。
それこそが俺の武器。
中にジャンヌがいて危機に陥っているならどうなる?
助けに行かないなんて選択肢はない。
終了。
なら万が一間違っていたらどうなる?
全然知らない要人がいる部屋に押し入った俺は晴れてテロリストの仲間入り。
だがよく考えれば俺は今や悪の組織の仲間、そんなこと関係ない。寧ろ箔が付くというもので仲間の信頼が上がる。
力こそ全て。
なるほどこういう時シンプルな悪の組織は気が楽だな。意外と警察より俺に合っているかもしれないな。
つまりどっちに転がってもデメリットはない。
なら答えは簡単。
やるしかない。
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