第257話 賭のような推理
口八丁手八丁で瞑夜に怪しまれること無く俺は自由な時間を得ることに成功した。その時間を使い俺はジャンヌを助ける。
少なくとも警察が犯人を捕まえた体裁を取っている上にジャンヌはフランスの要人、簡単に殺されたり拷問されていたりはしないだろう。俺のような下っ端なら隠蔽でも捏造でもして日本のお家芸臭いものに蓋で終われても、ジャンヌにはそうはいかない。下手をすれば外交問題にも発展してお偉いさんの頚が飛ぶ。警察を操れるほどの地位に就いている黒幕がそんな危ない橋をおいそれと渡らないだろう。
緊急性はなく余裕があるとはいえ俺の方が明日にはどうなるか分からない緊急性がある身だ。命と時間があるうちに責任は取っておきたい。
ジャンヌが捕まったのは俺の失態と言っていい。なぜあの時俺はもう終わったと思い込んで気を抜いていた。それだけじゃないパトカーに包囲されてなお俺は直ぐに解放されるだろうと高を括っていた。
信じられないほどの失態の連続。
それで俺だけが苦しむのなら自業自得の愚か者の話で済むがジャンヌまで巻き込んでしまった。
黒幕め俺だけなら兎も角、関係ないジャンヌを巻き込むなんてこの落とし前は必ず・・・。
いや冷静に考えれば、黒幕にとって厄介なのは俺では無く魔を祓う聖女ジャンヌだったのでは無いか?
畜生がっ、滾る怒りが捌け口を求めるがままに公園のベンチに鉄槌を叩きつけてしまう。 幸い平日昼間の公園には人通りは少なく俺に奇異の目を向けてくる者はいなかった。
聖女の力は乃払膜の魔術を無効化してしまう。より完璧になったコーティングを何に使うつもりか知らないがジャンヌを野放しにはしておけないだろう。
その可能性に思い至れば焦りが湧いてくる。高を括っていたジャンヌの安全すら危うくなってきた。
いや落ち着け。妄想を膨らませて勝手に自暴自棄になるな。
何にせよ直ぐにはない、何かしらの口実を作ってからだ。大丈夫ジャンヌは無事どこかに軟禁されている。
どこだ?
少なくとも警察署にはいなかった。
だからといって時間的にも近場のどこか。それも後々の事を考えてフランス政府とかに言い訳が出来ないような変な場所には監禁しないだろう。
以上の条件から捕まった警察署から近いそこそこの高級ホテルが有力候補だな。
悩んでいる暇はあまり無い。俺は導き出した一本の筋に従い直ぐさま該当するホテルを探しだすと予約サイトを使い部屋の空き状況をチェックする。
誰が泊まっているか何て分からないが、不自然さは読み取れる。
この特にイベントがあるわけでも無いこの時期、ホテルには空室があるのが普通。事実このホテルの普通の部屋には空きがあるがスィートがある最上階は全て予約で埋まっている。
何者かが急遽最上階を貸し切った?
偶然と見るか一連の流れと見なすか。
推理が強引で結論ありきで組み立てられている。
それでも今の俺にこの推理以外に武器はなく時間も無い。
瞑夜との待ち合わせには絶対に遅れるわけにはいかない。ここでしくじり信頼を失えばもう挽回は不可能だろう。そもそも隠れていると言ってこんなリスクを冒していると知られれば裏切りと見なされる可能性だってある。
それにだ、こんな枝を切っていく方法でなく根から絶つ方が確実とも言える。つまり黒幕の魔術奪取を阻止してしまえば黒幕がジャンヌを処理する必要は無くなり穏便に解放される可能性が高くなる。
さもなくば俺が魔術を奪取すれば黒幕と駆け引きも出来る。
最悪なのはここでクズクズと時間を浪費してしまい黒幕に魔術を奪取されること。こうなれば最悪だ。俺はもう何も出来なくなりそれこそ奇蹟を祈るしかない。
だとしたらこんな賭のような推理でジャンヌを探すのはきっぱりと諦めて乃払膜の方に注力すべきである。
実に合理的結論だというのに、どうしても胸に不安が湧き上がり合理に徹せられない。
だから一回だけ。この都合の良い推理が外れていたら諦めて合理的作戦に徹する。
それしかない。
天に祈り俺は行動を開始する。
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