第254話 いると思えばいる
冬場の風が吹き抜ける河川敷に人は少ない。
黄色く染まる草を踏み付けて車は止められる。
これだって中に男女二人いれば楽しいことをしていると勘違いされる、これは嫌じゃ無いのか?
まあ女心(鬼だけど)は俺は理解できないか。
「それでめぼしい建物はあったのか?」
「わからん」
「ああっ」
俺はタブレットをクリック操作しつつ素っ気なく答えれば、プチッと蚊を潰すような乾いた素っ気なさが返ってくる。
「お前私をアッシーにしておいて成果が無いなど許されるとでも」
だから手刀を作るのは辞めろって。
予想通り建物を外から一瞥しただけで分かるわけがない。透視能力や名探偵の観察力推理力があるわけじゃない、最低でも立ち止まって数分間は観察する必要はある。そうしたって断定できるほど分かるとは言えない。
まあ、現状そんなことすら出来ないのが問題であり、活路でもある。
「怪しい建物は分からなかったが怪しい奴らは分かったぞ」
「何!?」
「気付いてなかったのか、あの地区に張り込みをしている奴を何人か確認できた」
いると思っていたがいた。いると思ってなければ見付けられなかった。
いるという予想の上で俺は建物でなく建物を監視する人間を探していた。彼等の張り込みは巧みで街に溶け込んでいた。いると信じて探す俺だからこそ見付けられたと言える。
単純に強い奴なら兎も角、これだけの張り込みの手練れを揃えられる組織は日本広しといえども警察しかないだろう。予断は禁物かも知れないが、俺は彼奴等の背後に俺を嵌めた黒幕がいると確信している。
「そうなのか?」
「気付いてなかったのか、お前も大したことないな」
「なんだとっ」
血走った目で睨みつけてくるが、プライドがあるのかぐぬぬと我慢して手は出してこない。
いいことだ。此奴に小突かれたら簡単に肋が折れる。
「外から見ただけじゃ分からないし、中に入って確かめるわけにもいかない俺達が割り出す方法は一つ。見張っている奴らが何処を見張っているか逆算して割り出す」
彼等のいた位置視線の先何処を見ていたかをタブレットの地図上にマーキングしていく。
「こんなにいたのか?」
瞑夜が目を丸くして驚いている。
「何処の組織かまで流石に分からないがな」
捕まえて拷問でもしなければ断定は出来ない。俺の思い込みを下手に此奴に刷り込まない方がいい。寧ろ追い詰められて尖った推理で先を進めていくのは当たればデカイが外れてもデカイ。
「此奴等の配置から三つに絞れたな」
「なら早速乗り込もう」
「脳筋か」
思わず素で突っ込んでしまった。
「ああっ」
「ならギャンブラーか、俺は33%の確率では賭をする気にならない」
「ならどうする。近寄って調べるのか?」
「それも下策だ。下手に俺達が近くに寄って調べれば見張っている奴らに仲間を呼ばれる」
「切り伏せてやろう」
「だーかーら、騒ぎを起こした時点で敵に気付かれるだろ。今の俺達のアドバンテージは敵に知られていないことなんだぞ」
「確率だこそこそするだ、男らしくない奴だ」
「ああ、じゃあ乃払膜が俺達の存在を知って逃亡のために石皮音を処分してもいいんだな?」
「ぐっ」
流石にそれは困るようで瞑夜は歯軋りをして黙ったので、してやったと思えば直ぐに口を開き出す。
「あれも駄目これも駄目、否定するのは簡単だ。
当然代案あっての否定だろうな」
乃払膜を監視する彼等を俺達が監視して同時に突入して漁夫の利を頂くのが簡単なのだがこの手は使えない。
現状を整理しよう。
黒幕達が乃払膜のアジトを掴みながら監視するに止めているのは、乃払膜の技術が完成するのを待っているものと推測される。
奪うつもりなのかも知れないが、もっと切実な問題もある。
未完成でも乃払膜が今しているコーティングは相当厄介。聞いて見て感じることが出来ない相手なんて、爆撃でもしなければ倒せない。
だが好都合なことに、材料の準備が整って完璧なコーティングをするには今しているコーティングを一旦剥離する必要がある。
膜が無くなれば乃払膜を倒すことなどそう難しくない。
この策を実行する上で重要なのは、乃払膜に居場所がばれていることを知られないことと膜を剥離する時を正確に知ること。
特に二番目が難しいが何らかの方法で黒幕は知ることが出来るのであろう。
ここがクリアできるなら、まさに上策で俺も採用したいくらいだ。
だが問題がある。
その時には石皮音はコーティング材料に加工されているということ、当然セウもだ。
それはあまりよろしくない。
黒幕の思惑通りも面白くないが、瞑夜との契約もある。石皮音が幾ら気に入らなくても無理はしない範囲で助けることを前提にしなくてはいけない。
つまり俺達は黒幕に先んじて万全の状態の乃払膜に挑む必要がある。
それには綿密な作戦が必要になり、その為にも突入したら違いましたは許されない。
やはり力尽くなど論外で、決して瞑夜を困らせたいから却下した訳じゃ無い。
以上より、作戦は組み上がった。
「300万ちょうだい」
俺はヒモがパチンコ代をせがむかの如く軽く可愛く愛嬌を込めて言う。
「はあ?」
「プロを雇う」
結局それが一番確実だ。
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