第253話 一歩づつ

「どうすればいい?」

「取り敢えず軽く流してくれ」

 発信器で絞り込んだ地域に到着し、軽を運転する瞑夜の助手席に座る俺は答える。

 さて俺の予想通りならいるはずだが見付けられるか? 

 られるかじゃないか見付けなければならない。ここでいい所を見せないと俺が瞑夜に切られてしまう、物理的に。

 仮眠をして復活した俺の観察眼の見せ所だな。

「分かった」

 滑らかにクラッチを繋いで軽は発進する。こんな今時マニュアルの軽なんか何処で見付けてくるんだと呆れもするが、拘るだけはある。

 発進はスムーズでGを感じさせない。

 細い路地をくねくね曲がりまくるが遠心力を感じさせない。

 コーヒーを置いても水面はほとんど揺れないんじゃないか?

 公道を普通に走っているだけなのに運転技術に差があることをまざまざと見せ付けてくれる。だからといって嫉妬はしない、快適な運転のおかげでタブレットを見ていても頭が痛くならないで済むと感謝する。


 実際回って見るとタブレットの地図を見て想像していた以上のごちゃごちゃさ、古くさくても現場主義は間違っていないな。

 民家だ町工場だタワーマンションが立体パズルの如く組み合わさっている呆れ果てた状況、ここの街の連中は無能というより何も考えていないんだろうな。計画性は皆無、その場その場の利益に釣られ建物を建てていった結果がこれで、統一性も意思もない街が生まれた。

 まあこれはこれでカオスで味があるとも言える。整然と区画整理された街より冒険心がかき立てられる、おかげでどれでもこれも怪しく見えてしまうのが困ったもんだ。

 あの町工場なんか機材を持ち込んでも怪しまれないし、異音がしても可笑しくない。

 あのタワーマンションなぞ最上階を抑えてしまえば人目を憚らないでじっくりと作業に集中できる。

 あの豪邸だって怪しい地下室でもあれば十分作業は可能。

 あの、あの、あのあの・・・・。

 外から見ただけの推測は妄想に近く想像は膨らみどれもこれも怪しく見える。

 正直こんな妄想を膨らませているより物量力押しのローラー作戦をしたほうが時間の無駄なく確実なのだが封じられている。

 俺に一等退魔官の権限があれば乃払膜のアジトを炙り出せ事件は解決していた。だが先手を取られてしまいこの様だ。

 多少強引とも言えるあの逮捕の裏にはスピード解決を望まない意思もあったのか? つまりセウを犠牲にして手に入る乃払膜の技術こそ黒幕の狙い?

 俺はこんな事をしているよりも五津府や如月さんに接触することを優先した方がいいのではないかと頭を過ぎる。

 飛んで火に入る夏の虫。

 そんなこと黒幕も分かっている。二人の周りはガチガチに固められているだろう。これ以上黒幕が用意した焼け付く鉄板の上で踊ってたまるか。

 チラッと横目で見るおっかない女と行動を共にすることこそ黒幕の予想外。

 シン世廻と手を結ぶ。査問に掛けられれば言い訳のしようが無いほどの呉越同舟。だがそこまでしてこそ活路が見える。

 空回りする思考がちょうど落ち着いたタイミングで瞑夜が訪ねてくる。

「一周したぞ、もう一度回るか?」

「いやいい。情報は十分揃った、どこか落ち着ける場所。ラブホテルにでも行くか」

「またか」

 瞑夜はげんなりした顔をする。

「別にするわけじゃないからいいだろ」

 俺をやりたい盛り会えばせがむ困った彼氏みたいに扱うな。

「それでもお前とそういう場所に何回も行くのは女として嫌だ」

 そこまで言うかよ。

 まあ女に嫌われているのは慣れている俺としては、今更その程度の台詞で傷が付くような初心な心は持っていないが腹は立つ。

 いつか策に嵌めて犯してやろうか。

「なら何処ならいいんだ、お前達のアジトにでも案内してくれるか?」

「あまり調子に乗るなよ。

 河川敷にでも駐めてやるから車の中で考えろ」

「ちっ」

 まあしゃあないか。ここでアジトにすんなり案内してくれた方が怖い。それこそ逃げようがない牢獄に自ら入るようなもので、一歩どころか一句間違えただけで拷問フルコースに拒否権無しでご招待される。

 まずは俺が有能なことを示す。それからだ。


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