第252話 一緒に寝ないか
「何をしているんだお前は?」
風呂上がり備え付けの浴衣を着て寛ぐ俺を見た瞑夜の一声だった。
この連れ込み旅館古くさいが茶請けとお茶はなかなかいい。
はあ~生き返る。
そう言う意味では風呂も古風ではあるが汚くはない、掃除が行き届いたわびさびがある。
普通の旅館としてもやっていけるんじゃないか?
「風呂上がりに寛いでいるだけだよ。
一応お前にも勧めたけど自分で断っただろ。それで服と下着は」
「これだ、さっさと着替えろ」
瞑夜はぶっきらぼうに袋を投げ付けてくる。
「どれどれ」
中を見ればトランクスTシャツにユエクロのマネキンのコーディネイト一式を買ってきたような服が一通り。これなら目立たない、街の風景に解ける。
でもちょっと心許ないから革ジャンでも買って羽織って防御力を上げておきたい。
「ありがとうな。
それで追加でお願いがあるんだが、いいか」
「まだあるのか?」
両手を合わせて拝む俺を見下ろす瞑夜の目は冷たい。終業間際に残業を言い渡す上司を見るOLのようだ。
「一緒に寝ないか?」
「ああ」
俺が指一本立てるのと瞑夜から殺気が溢れるのが同時。
「一時間でいい、それくらいあれば十分スッキリ出来る」
「遺言は?」
瞑夜の指先が真っ直ぐ伸びた手刀が振り上げられる。あれが振り下ろされれば手刀でも鬼の力なら俺の首が飛ぶ。
本気で怒っている、この真面目女が。
「気が引けるから一応誘ったが、そんなに怒るなら俺一人で布団は独占させて貰う。
兎に角寝かせてくれ」
「はい?」
瞑夜の首が飼い主に意味不明なことを言われた子犬のように傾く。
「徹夜の頭では判断をミスる」
流石に瞑夜が来るまで寝て待っていられるほど剛胆ではない、風呂にゆっくり入ってセルフマッサージ。大分リフレッシュしたので体の疲れは誤魔化せるかも知れないが、頭はそうはいかない。
基本起きている限り考えることを辞められない俺は寝ない限り頭が休まらない。
これではいつもより判断が数秒遅れる上に合理解を間違うかも知れない。
相手は乃払膜に加えて俺を掌で転がす策士、万全でなければ対抗できない。
「頼む。真面目なお前が仕事中に寝るのに抵抗があるなら、その間に足を準備しておいてくれ」
まあよく考えれば此奴はまだまだ全然働いていない眠気もあるわけ無い。
なら働いて貰うが無駄がない。
「あっあしだと」
なぜか瞑夜は口ごもりつっかえつっかえ、何かミスを誤魔化そうとする頭の悪いバイトみたいな口調で答えてくる。
「出来れば小回りのきく軽の方がいい。シン世廻ほどの組織ならあるだろ。ないならレンタカーでもいいが」
寧ろその方が躊躇無く乗り捨てられていいかもしれないな。
「わっわかった準備してやろう」
意外と抵抗なく承諾してくれた。
「助かる」
「だがそう言う以上場所の目星は付いたと言うことか?」
「ああ、大体は絞り込めた。後は実地で調査するしかない」
最後は現場。
「いったいどんな手品を使ったんだ?」
瞑夜は俺の華麗なる頭脳労働を見てない。今度見せてやれば俺に対する態度も変わるかもな。
「説明してやってもいいが、お前何か勘違いしてなかったか?」
自分で思っている以上に頭が回らず、何か誤解を招く言い方をしてしまったかも知れない。一応誤解を招かないように、余計な修飾を省いて端的に言っていたつもりなんだが。何か招いた模様、今後の為にも誤解は解いてコミュケーションを円滑にしておきたい。
「私は何も勘違いしていない。午前中から寝ようとするお前の根性を叩き直してやろうと思っただけだ」
単なる体育会系か。
「まあそう言うな、俺はお前と違って頭脳派なんでね体力がないんだ」
「今だけは甘やかしてやろう」
瞑夜は主導権でも取り戻そうとしたか偉そうに胸を張って言う。
反らした胸に盛り上がる胸、意外とあるんだな。
「そりゃどうも」
一時間後、俺達は乃払膜のアジトを突き止めるため車で現地に向かうのであった。
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