第248話 狩の掟
いつの間にか近寄っていた警官の後方には自転車が置いてある。
一人か。
警邏中の警官にたまたま見つかったということか?
「おはようございます。何か用ですかお巡りさん」
焦りは禁物だ。俺は好青年の笑顔で挨拶する。
「おはよう。
用という訳じゃないんだが少し質問させてくれないかな」
口調は柔らかいが目は笑っていない。
俺の服装は多少よれてはいるが、それだけで職質されるほどじゃない。
「職質ですか、俺が何かしましたか?」
ざっと警官との間合いは二メートル弱。
警棒にも拳銃にも手を掛けていない。
周りはゴミが転がる人通りの少ない高架下の道。
右手は高い壁、左手はフェンスで囲まれ日陰に没した広場。
人目は今のところ無しといったところか。
「そういうわけじゃないんだが、一応ね」
一応で職質をされてたまるか。引きそうもない粘り腰、やはり手配は懸かっているとみていいな。
だが写真までは出回っていない? 警察署から逃げられた恥を隠蔽する為か公式じゃない? 注意喚起程度?
俺が逃亡犯だという確証があればこんなまどろっこしいことなどしない、無線で直ぐさま応援を呼ぶだろう。
総合すれば警邏中の警官に見つかるとは運が無いが、全くないわけではないようだ。
寧ろ単独行動する警官に出会えたのは幸運かも知れない。
目の前の男は今俺が欲しいものを全て持っている敵、敵ならば躊躇う必要は無い。
攻撃する権利があると思うなら攻撃される義務もある。
リスクとチャンスは表裏一体。
ここらが色々と俺の限界線、これは転がってきたラストチャンスなのかもしれない。
善も悪もありはしない、生きるため。
「それで何を話せばいいのですか?」
「そんな難しいことはないよ、取り敢えず名前と職業を」
「そうですか」
話をするために何気なく近寄る。
その態を装って一歩踏み出すタイミングで路上に転がる石を警官の顔面に蹴り飛ばす。
「なっ」
警官は反射で手で顔を庇い目を瞑ってしまう。
俺は訓練された凡人、相手も訓練された凡人だとすれば先手の一手が勝負を分ける。
空手でいう追い突き。遠間から飛び込んでいき体の全パワーを直進エネルギーに変換して拳に集約する大技。一撃必殺威力は凄いは実戦ではなかなか当てられない、普通に放てば躱されるカウンターを取られるとリスクがデカイ。当てるには何かしらの工夫が必要。
虚を突き実を突く。
気持ちいいほど決まった。
俺の全パワーが乗った拳が警官の鳩尾にめり込む、悶絶する警官に悪いがターンは譲らない。右の拳を引くと同時に左のフックを警官の顎に引っ掛けて脳を揺らす。
警官は白目を剥いて倒れ込む。
幸運の女神は足が速い、躊躇っていたら逃げられる。俺は警官を抱き留めると同時に素早く薄暗い広場に引きづり込む。
財布。以外と現金持ってるな。
警察手帳も貰っておくか。
警棒に手錠も頂き。
スマフォは指紋を押しつけてロックを解除しておくと。
俺は警官の身体検査をして使える物をありがたく頂いていく。
自然のジャングルもコンクリートのジャングルも同じ弱肉強食、負けたら全てを刈り取られ奪われる。
俺が一方的に奪っているようでも、俺が負けていたら逆に俺は全ての尊厳を剥ぎ取られ牢屋に入れられていた。
イーブン、対等だった。
正直、関係ない一般人を襲うよりかは心は痛まない。
後は銃か。
今後を考えれば絶対に手に入れておきたいが盗難防止用のコードが邪魔だ。切れるような道具は無いし申し訳ないが裸にひん剥くしかないか。
狩った獲物への感謝を込めて俺は獲物を骨の髄まで無駄にしない。
「何をしているのですか?」
「お前か、丁度良かった。このコード切ってくれないか?」
呆れた呼び掛けに振り返れば、鬼の刀使い瞑夜と呼ばれたくせるの従者がいた。
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