第247話 羅生門

何処までも伸びていき何処にだって行ける道。その道を往く当てもなくただ雲のように歩いている。

 警察署から無事脱出出来たが、これからどうしたものか展望はない。

 既に警察から逃げ出した俺への手配が懸かっているだろうに向かう先がない。

 やはり俺のような秀才タイプが後先考えないで行動すると碌な結果にならない。だが考えすぎていたらあそこで嬲り殺しの目に合っていた。

 つまり気付いたら詰んでいた。

 俺はいつの間に蟻地獄に嵌まって、嵌まったことすら気付けない愚かな蟻。

 誰だか知らないが俺が蟻地獄の上せっせと働いている光景はさぞな滑稽で笑えただろうな。

 だが地獄の底に引きづり込まれる一歩手前で力尽くで突破してやったと誇れない、その気になっているだけで実際には二番底に落ちてしまっただけなのかも知れない。

 スマフォもない無一文。

 10円玉一つ無く公衆電話すら掛けられない。

 そもそも誰に連絡を取ればいいのやら?

 こうなった以上俺を裏切ったかどうかに関係なく如月さんには警察のマークが付くだろう。迂闊に助けを求めるのは蜘蛛の巣に飛び込むようなもの。

 なら旋律士はどうだ? 如月さんが本当に敵に回らない限り俺と繋がりのある旋律士達にまで警察の手が伸びることはないだろう。彼等はビジネスパートナー、犯罪者一歩手前だろうとも俺が情に訴えれば動いてくれると思うほど思い上がってないが、現実味のある成功報酬を提示しても動いてくれないと思うほど自虐的じゃない。

 がっ最初に戻って金が無く電話が掛けれないし、もしあってもスマフォがないので番号が分からない。

 文明の利器に頼りすぎた末路だな。

 こうなると直接会いに行くしか無いが、休日にホームパーティーに呼び合う間柄でもあるまいし旋律士達の家がどこにあるのか知らない。

 巻き込むには少々心苦しいが大学の関係者というかサークル仲間はどうだ。面白がって協力はしてくれるだろうが、没収された学生証から大学は真っ先に警察がマークしているだろうな。合コンの小道具に用意したのが仇になった。

 そもそも高校生じゃあるまいし大学に行けば会える保証も無いし、家に行っても会える保証がない自由人共だからな。

 スマフォでもなければ捕まりはしないが、そのスマフォがない。

 こんな時こその仮とはいえ恋人ならどうだ。幸い時雨の家なら知っている。ただでさえない恋人としての評価が地に墜ちるが頼れば時雨は俺を見捨てないだろう。だがリスクもデカイ、迂闊に訪ねて時雨より先に呉さんや雲霧にでも見つかれば、彼奴等は喜んで俺を警察に突き出すだろう。

 それよりかは八咫鏡の事務所に逃げ込んだ方がいいのでは? 鍵はないがぶち破れば何とか中には入れるだろう。入れればパソコンもある道は開ける。事務所には手が及んでないと信じるのと時雨に隠れて会えると信じるのは、どっちが確率が高い?

 だが両者共通して、そもそも訪ねるには少し遠い。金のない身ではタクシーどころか電車もバスも使えない。

 歩くしかない。

 歩きのみで警察の追撃を振り切れるのだろうか。

 それでも歩くしかない俺だが、昨夜からの連戦と徹夜の尋問で疲労と空腹で気力だけで動いている身。せめて空腹を癒やしたくともアンパン一つ買う金も無い。

 まいったね。ほぼ詰んでいる。

 だがここで諦めはしない、俺を嵌めて影で笑っている奴に悪魔と手を組もうとも代償を払わせる。

 その為にもまずは金。

 結局は金。

 何は無くても金を手に入れる必要がある。

 手っ取り早いのが逆喝上げ。繁華街の裏道でも歩けばクズが金をたかりに来てくれるので、良心が痛むことなく金を巻き上げられるが残念ながら今は朝。クズ共は眠りについている。

 やるしかないのか?

 どんなに誇りがあっても善人でも、金が無くては何も為し得ない。

 羅生門を思い出す。

 生き残るには、強盗でもひったくりでも万引きでもするしかない。

 相手が善人だろうが悪人だろうが選んでいられる余裕はない。

 死ぬか悪に落ちるか。

 定まらぬままに悪寒走る気配に振り返れば、そこには警官がいた。


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