第242話 戦いはそれからだ
「おい、生きてるか?」
「うううん」
俺が道路で寝ている天見を揺すって起こすと天見は頭を抱えつつ起き上がってきた。
このまま道路に寝たままでいて車にでも轢かれた寝覚め悪いし、そうでなくても風邪くらいはひくかも知れない。この俺でもその程度の親切心はあるというか、細かい親切は積み重ねておいた方が後々役に立つときもある。
「ここは?」
辺りを見る天見の目には理性が戻っている。
「ふむ、正気には戻ったようだな」
これでまた一つ情報が手に入った。
後はあの愛を断ち切れる意思があるかだな。作り物かも知れないがあの愛は確かに素晴らしい、正気に戻ったところであの愛を求めて自ら乃払膜の下に行ってしまう可能性はある。
ヤクと同じだが残念ながら愛を規制する法律は無いので止める権利は無い。乃払膜は今でもその気になれば一大新興宗教組織が立ち上げられる。
「ゴム弾とはいえ当たり所が悪ければ骨ぐらい折れているかも知れないからな、念のため病院に行って検査しておけ」
病院まで送ってやるほど今の俺に余裕は無い。
「なっなぜだ」
「何が?」
「なぜ私は生きている」
「ああ、あれ鎮圧用のゴム弾だから」
「ゴム弾? なぜそんなものを」
「いやいや、俺警官だし市民をいきなり撃ち殺すわけにはいかないだろ」
弾は乃払膜と会話している最中に装填しておいた。
「そうじゃない。なぜ俺を生かしておく」
「いやだって、別にお前容疑者でも無いし」
別に魔人だろうが犯罪を犯さなければどうでもいい。石皮音達と違ってこの天見が犯罪を犯したという証拠どころか情報すら俺は持っていない。
それじゃあ法治国家では裁けない。まあ俺は例外的に特権があるが、かといって調子に乗って乱用すれば後でしっぺ返しが来る。
「はあ?」
「まあ鼻持ちならない奴ではあるようだが、その程度で命を奪うなんて世紀末じゃあるまいし」
「お前退魔官だと聞いていたが」
なにそれ、退魔官って魔なら問答無用で殺戮するイメージなのか?
それはまずいな。何とか払拭しないと、潜在的な敵を生み出すことになる。そういった意味でもここで天見に親切にしておいたのは間違ってなかったな。
「別にお前俺を殺そうとはしなかったじゃないか。最初の一言で俺を殺そうと思えば殺せただろ」
多少乱暴だったが俺に黙れと言っただけだし、セウに対しても暴力的に誘拐しようとはしていなかったと思う。
セウが断って拗れたときに暴力的になったかもしれないが、憶測じゃあな~。事実があれば鉛玉を遠慮無く打ち込めたが、勝手な憶測だけで命を奪えるほどサイコじゃ無い。
命は取り返しが付かない。そんな業を無闇に背負っていては時雨の横に立つことすら出来なくなる。
「私の従者はどうした?」
「ん、乃払膜に連れて行かれたようだが」
残りのもう一人のことか。正直影が薄いのであまり気にしてなかったが、ここにいないと言うことはそうなのだろう。
「頼みがあるんだが」
「なんだ」
此奴が頼み事を言うとは意外すぎる。
「従者の遺体は此方で引き取らせてくれ」
天見は自分を庇って死んだ従者の死体を見ながら言う。
「探られたくないことでもあるのか?」
意外すぎる態度に何かあるのかとカマを掛けてみる。
「死者を冒涜するな」
どこか超然とした顔をしていた天見が怒気を露わにした。そうか部下を悼む気持ちはあるのか。
「すまない失言だった。
司法解剖する必要も無いし構わないが、やるなら手早く痕跡が残らないようにしてくれ。
流石に騒ぎになったら俺の裁量を越える」
早朝に現れた大量の血痕!? なんてネタがネットに流れたらまた俺が火消しに動かなければならなくなる。
「感謝する」
天見はスマフォを取り出すとどこかに連絡を始めた。
「待たせたなジャンヌ」
俺がジャンヌの方を見るとジャンヌは祈りを捧げていた。多分従者の冥福でも祈っているのであろう。
「私も祈ってたので。それではこの後はどうするの?」
「まずは休憩だな」
ブラックは効率が悪いだけだ。風呂に入ってさっぱりして飯を喰って寝る。
戦いはそれからだ。
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