第243話 降参

 一旦家に帰ろう。

 血と汗にまみれベトベトする下着を脱ぎ去り、シャワーで肌にこびりつく血と汗を洗い流したい。そして一~二時間でも寝れば、靄が懸かって無理に働かせていた頭もスッキリする。起きたらファミレスで飯でも食べれば元気も出る。

 時間のロスのようだが、現状既に乃払膜と殻には逃げ切られている。何処をどう追跡すればいいのかすら分からない。いい考えも浮かばない。

 だったら休む。休めばいい考えも浮かぶかも知れない。

 セウが処理されるまで乃払膜の話を半分と考慮しても二~三日くらいは猶予がある。だったらここで二~三時間くらいの遅れはどうにでも成る。

 よし、計算は立った。俺の行動は決まった。

 ふと横にいるジャンヌが目に入る。ジャンヌは宿泊しているホテルまで送って一旦別れることにしよう、まさか聖女と言われる年頃のお嬢さんをお持ち帰りするわけには行くまい。何かあっても無くても後が怖すぎる。

 タクシーを呼ぼうとするが、はっとあることを思い出してしまった。

 合コンのメンバー。

 他の奴らはどうなっていてもいいとして、晴だけは安否を確認しておかないと。俺が逃げた後殻が止めをわざわざ刺していることはないだろうが、怪我をしてこの寒空の下放置されていたら流石にまずい。

 一休みする前にあの場所に戻る必要があるようだ。

 はあ~俺は何で変なところで思い出す。すっかり忘れているくらいの悪党なら楽に生きられるだろうに。

 仕方ない。

「俺はゲームをしていた場所に戻って後片付けをしておく。後で連絡するからジャンヌは先に帰って休んでいていいぞ」

 実際ジャンヌはいてもすることがない。だったらこれが合理的。

「コラッ」

 またデコピンされた。

「そういう所が水臭いと言っているの。私も付き合うわよ。

 セリ一人じゃ心配で休めないわよ、護衛してあげる」

 笑ってウィンクしてくるジャンヌ。俺のことを思ってくれている気持ちに、壊れた心も少し温かくなる。

「それはすまないな。

 だったら甘えついでに添い寝でもしてくれ」

 ジャンヌの優しさに感謝するのとこのおねーさんぶったジャンヌを少しくらいやり込めてやろりたいと思う気持ちは別と、軽口を言う。

「責任取る覚悟はあるのかな~?」

 ジャンヌがずずずいっと俺の目を覗き込んで来て、俺は口ごもってしまう。

「まだまだ修行が足りないぞ~んっんっ」

 口ごもった俺の顔を見てジャンヌは猫のように笑う。

「くそっ」

 ジャンヌに勝つ為俺は更なる研鑽を積む必要があるようだが、何をすればいいのやら。

 降参した俺と何か勝ち誇ったジャンヌは並んで下の現場に歩き出すのであった。



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