第238話 ファイナルアンサー
「技術者としてのお前は評価してやるが、その技術は認められないな」
言ってしまった以上、いつ始まっても可笑しくない。
今の内に実験しておく。先程は催眠光線でも出ているのかと警戒したが、まさか感情が鏡で反射するとは思えない。俺は気を強く持って乃払膜の位置を鏡で確認した。
乃払膜は効果を高める為か、いつの間にかセウを自分の胸元に抱き寄せていた。セウも見ようによっては恋人に抱かれて至福に浸っているようだ、というか実際に真の愛とやらに包まれて至福なのだろう。
あの復讐の怒りに取り付かれていたセウがあんな穏やかな普通の少女のような顔をする。確かにこれは人類を救う一つ手なのかも知れない。
よし、俺は冷静だ。
乃払膜の姿を確認したが先程のような気分にはならない。これで俺は有力な武器を一つ手に入れた。
「所詮貴様も我が技術の素晴らしを理解は出来るが崇高さは理解できない凡俗か」
失望の響きが籠もった声が響いてくるが、そんなに俺に期待していたのか? 俺なら仲間に成ってお前に嬉々として協力すると見込まれていたようで俺には乃払膜が期待するような何かがあるようだ。
大局を見るなら少しの犠牲でその後大勢の人が救われることになる。少しの犠牲だって交通事故で死亡する人数に比べれば微々たるもの。
だが、小局がそれを許さない。
「俺の知らない世界でやってくれるなら構わないが、俺の縄張りではご遠慮願おうか」
此奴は根っからの技術者。例えここでセウを手に入れたことで求めるフィルターが出来たとしても、それで立ち止まりはしない。更なる上を目指し、レア素材の収集を始める。
そして惚れた贔屓目かも知れないが時雨は此奴が目を付けそうなレアな感情を持っている。ついでに言えばジャンヌもか。
契約による仮の恋人とはいえ俺は恋人、恋人が牛のように解体される可能性を見過ごすわけにはいかない。
最低でも俺の生活圏からは消えて貰う必要がある。
「我を恐れる心はあるようだな。
ならサンプルは天然が一番、大人しく帰るのなら見逃すぞ」
どうやらこの場は俺を逃がし。後日完璧なフィルターが出来たら改めて実験しに来るつもりのようだ。
それは何より許せないな。
この俺の我を他人が操ることなど、あってはならない。
そんな可能性があることすら許せない。
なら何処に隠れようとも探しだし如何なる手を使っても潰すしか無い。
この瞬間俺と乃払膜は両雄並び立たぬ関係が決定した。
「その少女を置いていくならいいぜ」
これで俺をセウに惚れているか正義に燃える警官とでも錯誤してくれるかな?
取り敢えず俺の真意が知られていいことなど無い。悪いがセウには此奴の目から俺の真意を逸らす隠れ蓑になって貰う。
代わりに出来うる限り公務員の義務レベルで助ける努力はするぜ。
「二人は諦められてもこの少女は無理だな」
まあそりゃそうだよな。元々此奴はセウが目当てでやって来たわけで天見や石皮音はついでの掘り出し物。技術者にとって脇にどんなに金目の宝石があろうとも技術開発に必要な石ころに執着する。
さて最終目的についての腹は決まっているが、手段は正直決めかねる。
連れ去れても直ぐには大丈夫とは分かった。だったらここは退いて後日万全の体勢で挑むのが最上策。時雨・ジャンヌ・キョウ・ユリ・獅子神・燦と金に糸目を付けない豪華フルメンバーで挑めばいい。
だが、踏み切れない。
金が無いこともあるが、どうにも上策過ぎて足下を掬われる予感がこびりつく。
理屈は無い。
俺が歩んできた人生で培った勘が囁く。
全くもって合理じゃ無いな。
合理なら一時撤退、勘ならこの場で勝負。
賭けるは己の命のファイナルアンサー。
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「それじゃ始めようぜ」
全くもって合理じゃ無い。
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