第217話第 合コンの打ち合わせ
「本当に守ってくれんだろうな」
「なら一生警察病院で過ごすか?
いいからレクチャーしろ」
俺はごねる大野に有無も言わさず命令する。
今俺は警察病院の会議室を借りて、来る合コンに向けて楽しい楽しい打ち合わせを行っている。
「合コンでターゲットを見定めた後は、ノリで酒をぐいぐい飲ませていい感じになってきたところに、止めにクスリ入りの酒を飲ませて泥酔させる」
驚くほど平凡な手だが、飲み会を盛り上げてノリで酒をぐいぐい飲ますのは俺には難しい。飲み会は苦手だ、あの合理も何も無い世界馬鹿の仮面を被ってもどうにも見透かされてしまう。
「なあ、これ本当に合コンの打ち合わせなのか?」
西野がここに居るのが訳が分からないという顔で戸惑いの声を上げてくる。
合コンのメンバーが足りないから助けてくれと言ったら、しょうがないな~と快く引き受けてくれた西野の男振りが下がってしまうので、聞こえないふりをしてやろう。
「ターゲットは俺が指示するから、合コンの盛り上げはお前にやってもらう」
西野もその辺は上手くフォローしてくれるだろう。
「そういうのは俺の役目じゃ無いんだが」
「やれ、死ぬ気でやれ。
それで」
合コンで二枚目でも気取っているのか渋る大野だが、もうじゅんぶんに道化。おおいに合コンで三枚目になって貰う。
「潰れた女を車で送るフリして狩り場に運ぶ。その後は気付け薬で起こしたところを恐怖で追い立ててゲーム開始だ」
「最低ね」
「同意ね」
会議室に大原とジャンヌの冷たい声が響き、冷たい視線が大野に突き刺さる。
気持ちは分かるが仕事中は個人的感情は抑えて貰いたい。
「わざわざ起こすとか、俺には理解出来ないな。やりたいなら眠っている内にホテルにでも連れ込んだ方が確実で安全だろ」
その間の過程はリスクが増すだけじゃ無いか。万が一にも逃げられたら人生終わりだ。一夜の快楽と人生を天秤に掛けるなんて俺には出来ない。
「普通にやったって面白くないだろ、抵抗しない女を犯して何が面白い」
得意そうに語るのはいいが大原が今にも後ろから刺し殺しそうな殺気を放っている。それに全く気付かないというのは幸せなのか分からないが、そのくらい他人の心に不干渉で無ければ、こんな遊びなんてやれないか。
此奴等もある意味俺同様普通の人としての心が死んでいる。此奴等は刺激の過剰摂取による麻痺、もはや人生を天秤に乗せるほどのリスクで無ければ興奮しない。
「ターゲットを選ぶ際には、気の強さも考慮してんだぜ」
語れるのがよっぽど嬉しいのか大野は得意気にしゃべり続ける。
「ゲームはいいが逃げられないのか?」
「あの辺の路地の迷路のように入り組んだ地図を俺達は作成したからな、要所要所に先回りすることで女に逃げられることはまず無い。手抜きはしないぜ」
チートを使うぐらいの理性はまだ残っているようだが、そんなのは本物のリスクじゃ無い。紛い物だ。
やむにやまれるリスクに挑んで、あらゆる手を使ってリスク回避する。それこそが純粋なリスクで、それでこそ魂が滾る。
少し考え込んだ俺を無視して大野は暇な入院中に作ったのか自作の地図を広げて説明する。
「ふむ」
俺は意外と精密に描かれた地図を見つつ思案する。
「この地図を見るに三人では追い込めきれないな」
路地裏は複雑で獲物が少し機転を利かせれば簡単に撒けそうだ。
「なあ、俺も人数に入っているのか?」
「大野、お前と同類の奴を何人連れてこられる?」
「碌なのが居ないぞ、だから今まで誘わなかったんだし。確実にゲームのことを自慢気に酒の席で話すような頭と口が軽い奴らだ」
真性クズの大野にぼろくそに言われるクズとは、クズの世界でも信用は大事と言うことだな。
「構わない。却ってその方がリアリティが出る。
それに後日自慢気に話せるとは思えないしな」
「分かった、最低三人は用意する」
合わせて六人、いや流石に西野にゲームまでは酷か。5人なら何とか形になるし、穴があった方がゲームは燃えるだろ。
「質問だけど」
ジャンヌが横から聞いてくる。
「なんだ?」
「幾ら何でもこんな見え透いた罠に引っ掛かって、前回と同じようにメンバーとすり替わるなんて手を使ってくると本当に思っているの?」
「思ってない」
「ならなんで」
「ゲームをしてみたかっ・・・、勿論冗談だよ」
ジャンヌと大原から膨れ上がった殺気に押されて冗談を言い切れなかった。
「流石に同じ手は使ってこないだろうが、大野が無事である情報を手に入れたら何かしらのアクションを起こすことは十分考えられる。
周りから様子を見るに留まらず、ゲームが始まって何の罪の無い少女が輪姦されそうになったら出てくる。出てこないで見捨てられるようなプロじゃない、ポニーテールの女は信念を持って行動している。
つまり素人だ、そこに付け込ませて貰う」
うわ~って顔で女性陣二人が俺を見る。
「なんだよ」
「あんたって性格悪いわね」
「こんな上司に付いていって大丈夫からしら」
「なんだよっ、実に合理的な作戦だろうが。
ならジャンヌにはこれ以上の別案があるというのか? 批判だけするのはフェアじゃ無いぞ」
「付き合うほどに分かる嫌な奴ね。そんな嫌な奴に頼るしか無い自分が嫌になるわ」
ジャンヌが溜息交じり言う。
「言いたいこと言いやがって。
対案が無いのなら話を進めるぞ。
この作戦の問題はターゲットにする女だ。こればかりは幾らリアリティを出す為とはいえ何も知らない素人を使うわけにはいかないしな」
下手すればトラウマになって損害賠償を要求されるかもしれないし、幾ら退魔官特権で罪に問われないと言っても後味が悪い。
「私が出ましょうか?」
「大原は駄目だ、素人に見えない」
「素人に見えないって、何かその言い方含んでません?」
「別に、大原が美人なのは認めるが、とても素人の女子大生に見えない。溢れる玄人(軍人)のオーラが出過ぎて、ポニーテールの女も出てこないだろう」
大原ではとても追い詰められて輪姦されそうに見えない、追い込んだこっちが逆に倒されそうだ。それではポニーテールの女を引っ張り出せない。
本当に輪姦されるのではという危機感を感じさせる女で無いと。
「素人に見えないって女子大生に見えないって、私だって若いし・・・」
大原何やらぶつぶつ言い出して俯いてしまった。
意地悪しすぎたか?
「ジャンヌも同じく駄目だ。お前はお前で目立ち過ぎる。
影狩お前のガールフレンドに丁度いいのいないか?」
「俺が軽そうだからって聞いてない?」
イケメンでノリが軽いにーちゃん、ガールフレンドは両手で数え切れないほどいるだろ。
「その通りだが」
「・・・。
流石に居ないな。自衛官での知り合いで大原より軽めの子もいるけど、今関東にいないし。いつものようにここは誰か雇えばいいんじゃ無いのか?」
「そもそも金欠に追い込まれたから、こんな仕事をしているんだぞ」
「いやいや、ここでケチって失敗した方がまずいだろ。先行投資だよ」
軽く言ってくれるが核心は突いている。
いるか、女子大生くらいで迫真の演技が出来る女なんて。
時雨じゃちょっと幼いし、そもそも大野達の前になんか晒したくない。
ユリに演技が出来るとも思えない。
皇は、大原と一緒だな。本当の女子大生だけど女子大生っぽく無くおっかない。
他に誰かいるか?
キョウか。時雨と同じ女子高校生だがあの躰付きなら女子大生で通用する。何より頭が回る。
ツケが効くか、そもそも都合良く空いているだろうか?
「分かった。俺の方で探しておく。
合コンは三日後の夜だ。当然だがこの作戦一本に賭けるほど俺はギャンブラーじゃ無い。他のルートでもポニーテールの女の捜索はするぞ」
「「「はい」」」
ジャンヌ、大原、影狩が締めるときは締めて歯切れのいい返事を返してくる。
「俺は帰っていい?」
「西野は合コンを盛り上がる芸を一つでも多く仕込んでくれ。合コンを盛り上げて自然な感じする俺には出来ない仕事だ頼んだぞ」
空気が読めない俺に合コンで盛り上げるなんて出来ない、精々盛り下げないように愛想良く相槌を打つくらいだ。
「分かった」
諦めたように西野は快諾してくれた。
「よし、解散」
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