第216話 ポニーテールの女
何やらスマフォとタブレットを駆使してやり取りをしていた下膳が顔を上げた。
「良く必死に働いている女の前で寛いでいられるな」
ピザトーストを平らげ珈琲を香りと共に楽しんでいた俺を恨めしそうに睨みながら下膳が言う。
「気にしてどうする、日本人の悪い病気だ。だから残業が減らない。
第一お前だって逆なら同じ事をしていただろ?」
言っちゃ何だが、この女も俺に匹敵する性格の悪さだ。善悪で分ければ悪人に分類される。
「嫌な男だよ、絶対にもてないな」
下膳は苦々しい顔で悪態を付くと喉が渇いたのか珈琲を飲む。
「正解。可哀想と思うならAランクの合コンでもセッティングしてくれ」
「自分の面を鏡で見てから言いな。いいとこBだよ」
「そこは財力でカバーするさ」
「金はあるのか?」
急に下膳が真顔で聞いてきて、正直怖い。あると言ったら愛人にでも成ってくれそうだ。
「将来に乞うご期待」
「はっ夢は布団の中で見てな。さっさとあんたとの縁を切らせて貰うか。
参加したメンバーにリストを送って確認したら、確かに一人リストに載ってない女が来ていた」
「腰まで届くポニーテールの女か?」
「そうだ」
これで大野の話の裏が取れた。確かにポニーテールの女は存在している。幽霊でも幻覚でも無い。
「なら来る予定の女はどうしたか調べろ」
「聞くと思って調べておいたよ。なんでも部屋を出たところまでは覚えているが、気が付いたら部屋のベットで寝ていたそうだ。連絡も入れずに欠席したから自分から連絡しにくかったそうだ」
女は金は払わなくていい代わりにドタキャンに関しては厳しいルールがあるのかもな、というかこの女の事だ絶対に設けている。男に金を払わせている以上、ドタキャンはこの女の商売の信用に関わるだろうからな。すぐには報告しにくい状況、その点も上手く付いてすり替わったのかもな。
だがこれで偶然魔人の女が合コンに参加して偶然獲物になって波柴達に呪いを掛けたという線は完全に消えたな。
このポニーテールの女は明確に波柴達をターゲットにしている。この女が復讐代行者だとすれば、波柴達の手口は同然知っていることになる。それでいて合コンに潜り込み自分が獲物になるなんて、まどろっこしい手口を取った理由は分からない。それでもそういう手口を取った以上、波柴達が開催する合コンの情報をどこからか入手する必要がある。
つまり情報の漏れた先を辿ればポニーテールの女に辿り着く。
「これでカシが増えたな」
「ああ」
下膳が俺を殺せるほどに睨み付けてくる。
「お前の合コンの情報はどこからか漏れている事が判明したじゃ無いか、そうで無ければすり替わり何て出来ないからな。
お前のそのタブレットのセキュリティーとかは大丈夫なのか?」
さり気なく下膳に漏れた穴を探すように仕向けてみる。
「自分でしゃべったかも知れないだろ。それにそんな秘密にするほどの情報じゃ無い」
言われてみれば確かにそうだな。合コンに参加したくらい仲良しグループでしゃべっても不思議じゃ無い。それを偶然ポニーテールの女もしくは仲間が聞いて知ることもあるかもしれない。
だがその確率はどのくらいだ?
やはりもっと確実な方法で合コンメンバーのリストを手に入れたと考えるべきだな。だが、こんなにも明快なロジックでもこの女は意地でも否定してくるだろう。理解出来ないんじゃ無い、これ以上俺に弱みを見せれば何をさせられるか分からない恐怖から否定してくる以上議論は泥沼に嵌まる。
回避するには、それを超える恐怖を与えるか懐柔するしか無い。
「嫌がる女は嫌がるぜ。自分からリークするのはいいが、お前からリークしたと知ったらここぞとばかりにお前に叩きに来るぞ。出る杭は打たれる、これも日本人の美しき気質だな。結果、女が集まらなくなるぞ」
「ぐっ、まさかお前言い触らすつもりか」
「悲しい誤解だな~俺のような紳士が素敵なレディーにそんな真似をするわけ無いじゃ無いか」
俺は欧米人のように肩を竦めてみせる。
「誰が紳士で誰が素敵なレディーだ」
下膳は呆れ果てたように言うと珈琲を飲む。
「俺と君さ。
それでだ一つ協力してやろうじゃ無いか」
「協力?」
「俺とお前にメリットがある、win-winの提案さ」
「言ってみろ。聞くだけ聞いてやる」
乗ってきたな。
「簡単さ。大野の名で合コンのセッティングをしろ」
「えっ」
「安心しろちゃんと金は払ってやる」
もしリークの穴がそのままなら、ポニーテールの女は大野が無事でまた同じ事をしようとしていることを知る。
そうしたらどんな行動に出るか?
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