第215話 合コンセッティング

 そりゃ変装くらいはするだろう。

 髪型を変えるなんて最も手軽な変装。そういった観点で見るとポニーテールにしたときに腰まで届きそうな長い髪の女は居なかった。なら逆にショートでウィッグを被ったと考えるか。

 だがそれでもしっくりこない。写真だからか、大野から聞いた人物像に当てはまりそうな女は居ない。それとも会えばしっくりくるのだろうか? 参加した女は全員で6人、一人一人回れないことは無い、やるしか無いのなら面倒だろうがやるしか無い。

 だがその面倒なことをする前に、それしかないのかだけは確かめないとな。

「本当にこれで合コンに参加した女は全員か?」

「疑うのかい。私は誠実に対応したつもりなんだがそれで信じて貰えないならこの話は続けようが無いな」

 余裕の態度で珈琲を飲む下膳。

 相変わらず人を舐めた態度だが、動揺は無く、攻める根拠も此方に無い。それにこんなこと裏を取れば直ぐに分かることだ。ここで俺と別れて直ぐさま夜逃げでもするつもりでも無い限り、チープな嘘をつくほど馬鹿な女じゃ無いか。

「悪かった。

 それで合コンのセッティングとは何をするんだ?」

 合コンのセッティングと馬鹿にして詳細を知ろうとしなかったが、まずはそこから改めることで何か見えてくるかも知れない。

「ふん、一度だけ許してやるさ。

 肝は顧客の要望に沿ったレベルの合コンをセッティングすること」

「具体的には?」

「まずは男が出せる金額によって私がセッティングする店のグレードが変わる。

 くっく、面白いぞ、飲食代は男の全額持ちなんだ、女にいいところを見せたく見栄を張って高すぎる店を選べば破産する。男の欲望と葛藤が凝縮されていて、これだけでもお腹一杯になれるぞ」

「悪趣味な女だ」

「そして店のグレードに合った女を揃える」

 ここまでは普通の合コンのセッティングと変わらない気もする。

「そこからどうやってお前の利益が決まるんだ?

 まさかボランティアとは言わないだろ」

「当然、グレードに合わせた紹介料を貰ってるさ。

 ざっと松竹梅で5,3,1かな。たまに特別料金も貰うけどな」

「その中から参加する女にマージンを払っているのか?」

「勘違いするなよ。キャバクラ嬢じゃないんだ。大抵は飲食代がただなら参加する、出会いを求める普通の女だよ」

 自分に見合った店の飲食がただで見合った男も付いてくるなら悪くは無いか、三大欲求の内二つが満たされる。

「だがその言い方だと払っている女も居るんだろ」

 そこまで行けば合コンの斡旋と言うより出張コンパニオンだが、先に提示された金額じゃ払えないような気もする。

「世の中そんな高嶺の華を求める男もいる。そういう場合は特別料金を貰って斡旋してやるのさ。

 あんたも挑戦してみるかい? 切っ掛けは高いかも知れないが、上手くいけば後はロハだぜ」

 それは嘘だな。いい女は維持費が高い。

「機会があればな」

 5+αの一夜の夢どころか一回の飲み会の夢、どんないい女なんだか。それで時雨以上のいい女が来るなら見てみたいぜ。

「ご利用お待ちしてるよ」

 これでだいたいの仕組みは分かった。ここから思い付く可能性を潰していけばいい。

「お前が店に行って始まる前にメンバーの確認はしないんだよな?」

「ああ、そんなこといちいちやってられないね。セッティングだけだ。後は好きにやって貰っている。まあ、何かあったときは対応するけどな」

 確かにいちいち確認していたら時間が掛かって数は稼げないが、トラブルを避けるならそこまでするべきなのだろう。所詮は女子大生のお遊びビジネスなのか削れるところは削るコスト意識の高い故なのか。

「その合コンに後から紛れ込むことは可能か?」

 合コンが行われる情報を掴んで何食わぬ顔で合コンに加わる。これならリストに無いのも分かる。

「人数が揃ったら始める前に私にメールで連絡するようにしているが、そんな連絡は無かったな」

「するまでも無いと思ったんじゃ無いか?

 下心ある男にしてみれば人数が増えてラッキーくらいにしか思わないだろ」

「どうかね。飲み食いした分は男持ちになっているんだ、人数が増えれば負担が増える。そんな負担に耐えられるなら最初から人数多めに頼んでいるだろ」

 そうか男側は見栄を張るため予算ギリギリで店を選んでいる。例え一人でも人数の増加は負担がでかい。

 だがそれでも男は馬鹿。

「それを許容出来るほどの可愛い娘なら」

「今度は女の方が反対するだろうよ」

 確かに強力なライバルの出現は女側が面白くないか。男側も女側の顰蹙を買ってしまっては折角の彼女を作るチャンスを潰してしまう。

 だがそれも普通の出会いを求めた合コンの場合だ。波柴の馬鹿息子なら金は気にしないだろうし、反対する女も黙らせるだろう。

 可能性はある。だが、そんなことがあったのなら大野が俺に話しているだろう。あれは小賢しい、俺に嘘をついたり隠し事をしたときのリスクは承知しているはず。

 後から合流の線は消していいな。次の可能性の検証に入ろう。

「合コンに参加した男女は、自分以外に誰が出るか知っているのか?」

「男側は自分でメンバーを揃えるから当然知っているだろうさ。

 女側は当日までは基本知らない。女側は私がスケジュールとかを調整して揃えているからな。一人で心細そうな奴は友達同士で参加するようにするが、それでも全部は知らないだろう」

 六人だったというから、二人で参加なら半数以上は知らない女か。

「色々と大変だな」

「分かってくれるかい。それでも私はこれを足掛かりにビジネスを成功させて金持ちになりたいんだよ」

「俗物的でいい夢だ」

「そういう褒め言葉は初めてだ」

「俺は個性的でな。

 その話だと、一人くらいすり替わっても誰も気付かないということだな。今すぐ合コンに参加した女達に参加予定以外の女が来なかったか確認しろ」

「ああっどうして私がそんなめんどくさいことを」

「情報のリークは信用に関わる死活問題だと思うが? お前が動くより早くネタを俺が流してやろうか」

「私も大概だが、お前も嫌な奴だな」

「危機管理の重要性を教えてやっているんだいい奴だろ?」

「ぐっ言ってろ」

「金持ちになりたいのなら時間の無駄するな。早くしろ」

「ちっ」

 それでも納得した下膳はスマフォで何やら連絡を取り合っている。その下膳が必死に働く姿を肴に俺は珈琲とピザトーストを優雅に食する。

 うまい。


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