第213話 イケメンスタイル

 俺は波柴達の大学、私立慶王大学商学部のキャンパスに入り講義の時間割を調べると都合の良いことに必須科目の講義がもう直ぐ始まるところだった。俺は直ぐまで教室に向かうと、もう直ぐ講義が始まるということで学生達が集まりだしている。その中で俺は出来るだけ普通そうで一人でいる男を選んで声を掛けた。

「すいません」

「なんでしょうか」

 見知らぬ男に声を掛けられ警戒するように答えてくる。 

「ここに下膳 笙梅さんはいないですか?」

「下膳に? 何の用?」

 人を探しているだけと分かって肩の力が抜け普通の対応をしてくる。

「なんでも下膳さんに頼めば合コンを組んで貰えると聞いてな」

 少々際どいが探りを入れた返しをする。

 さて、どう反応する?

「へえ~でも結構金にがめついって噂だぜ」

 何それ?と返されず、いい情報がおまけについて返ってきた。そうか、あの女大野だけで無く色々と手広くやっているんだな。

「こっちは必死なんだよ察してくれ」

 もてない感じは元々だから、多少必死さを演出して答える。

 こうなるとやはり目立つからとジャンヌに近くの喫茶店で待って貰って一人で来たのは正解だったな。あんな美人を引き連れていたら今の俺の迫真の演技も台無しになるところだった。

「そういうことなら。あそこに座っているのが下膳だ」

 男が指差す先には気の強そうな女がタブレットを気怠そうな顔で操作していた。

 ソバージュで肩まで伸ばした髪に目つきは少々悪い、ヤンキーが女子大生になったような感じで棘や毒は普通に隠し持ってそうな女だ。

「ありがとう。これで昼は豪華にやってくれ」

 俺はいい情報をくれた礼に二千円ほど男に渡した。

 何しろこれで駄目だったら、警察の力を使って学生課に呼び出しでもして貰う必要があった。出来るだけ秘密裏に動きたい此方としては、最後にしたい手段だった。

「えっいいのか」

「礼だ。また何かあったら頼むよ」

 今度の展開次第では下膳の監視が必要になるかも知れない。そういう時の為の土台作りと思っての出費だ。


「隣いいかな」

 見知らぬ女性へスマートにアプローチ出来るイケメンスキルなぞないが、出来るだけ事が穏便に行くようにイケメンをイメージして爽やかに呼び掛ける。

「ああっ」

 俺の紳士的な断りに下膳は睨み返してくる、ここで頬を赤らめて素敵なんて思ってくれる何て夢は見ていないが、これは少し酷くないか?

 俺のイケメンスタイルがお気に召さないようなら、遠慮無く俺の得意スタイルで行かせて貰おう。

 すなわち、ビジネススタイル。

 威嚇され許可などされないが、構わず俺は空いている下膳の隣に座る。

「ちょっと、お前・・・」

「大野は捕まったぞ」

 俺は怒鳴ろうとした下膳にぼそっと囁く。

 まずはビジネスの基本、交渉材料を俺は出した。

「えっ」

 俺の不意打ちに可愛いことに下膳は目を見開いて驚いてしまう。

 直ぐにしまったと顔を戻すがもう遅い。しっかり見させて貰った。ここでポーカーフェイスを維持出来るような女なら腰をじっくり据える必要があったかもしれないが、意外と押し切った方がいいかもしれないな。

「ここがいいか? それとも外のがいいか?」

 俺は下膳に思考する暇を与えず一気に迫る。

「外で」

 即答。人の目もあるここで籠城して時間を稼ごうなんて往生際が悪いことはしない。

 逃げられないと観念した弱気か、逃げるより俺の意図を探ってやろうという強気か。

 目を見る限る後者のように感じる。だが思い込みは足下を掬われる、じっくりと下膳という女を見定めて、じっくりと煮詰めていこう。

「あや、悪いけど代弁頼む」

 下膳は前に座っているお友達らしき女に声を掛ける。

「いいけど、平気なの?」

 あやは俺と下膳の顔を交互に見ながら言う。

 どう見ても厄介ごとに巻き込まれた友達を心配する顔、男が女を誘いに来たんだラブロマンスを連想したっていいだろうに。

 ここで何か誤魔化しておかないと通報されるかも知れないな。

「大物顧客なの。うまくまとまったら今度奢るから」

「分かったわ」

 まだ腑に落ちない顔をしているが、下膳自ら言ったことで多少は納得してくれたようで通報はされる心配はなさそうだ。

「教授が来る前に、早く出ましょ」

「そうだな」

 まっ折角代返を頼んだのに教授に出るところを見られた可哀想だしな、俺と下膳はそそくさと講義室を出るのであった。


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