第84話 つけ
煌めく無数の星々が集まり渦を為す。その渦の行き着く先に星々が集めら濃縮していき黄金の水となり大瀑布と成って注がれていく。注がれる先、そこは全ての魂源たる海が広がっていた。
目が醒めた時、俺は暗闇の中独りぽつんと涙を流していた。
「これが世界だというのか?」
暫し自問し考えをまとめているといきなり明かりが付いた。
今更ながら俺はベットの上で寝かされていたんだな。服はガウンタイプの水色の入院服、上半身を起こした時にか少しはだけている。
そんな俺を、部屋にいつの間にか入ってきていた白衣を着た女だか男だか分かりづらい医者と看護婦が見ている。
病院なのか? 素早く見渡すと部屋はベットくらいしかない殺風景な六畳ほどの個室、窓には鉄格子、ドアは覗き窓があり鍵は内側からは掛けられないように成っている。
「お目覚めの気分はどうかな?」
医者が中性的な声で尋ねてくる。
「囚人になった気分だ」
「まあ、そんなものね。暴れられても困るものね」
隔離部屋みたいなものか、それで武器になりそうな余計なものがないのか。まあ、拘束服を着せられてないだけマシか。
俺は助かったようだが、それ故に俺が廻に洗脳された疑惑を払拭できないのだろう。しかし無駄なことをする。こんな所で暴れ出すくらいならあの場で廻が連れ帰っているか始末しているだろう。洗脳された本性を現すなら、自由になった後だろ。
「俺はどのくらい寝ていたんだ?」
「二日ほど」
「そうか」
脳みそが吹き飛んだ割には二日で済んだのかと思うべきなのか、最期には傷一つ無かったのに二日も掛かったのかと思うべきか。
「それであんたは誰なんだ?」
「私は旋律士でもあり精神科医でもある、鈴鳴。ユガミに飲まれたり魔に目覚めかけた人の治療を行うのが私の仕事。
ちなみにここは警察病院よ。この隣にいる子も大人しそうな顔してるけど、それなりの戦闘訓練も受けているから」
隣に立っている看護婦、確かにショートボブで可愛い顔立ちをしているが、まるで俺と戦っているかの如く、その目はずっと俺を俺の一挙手一投足見逃すまいと見据えている。
ナース服を着た護衛と言った方がしっくりくる。
「それで悪いけどこれから検査をさせて貰うわ」
どうせ寝ている間にも色々と検査をしただろうが、意識が戻ったところで念入りに検査を行うと言ったとことか。
これからも疑い続けられるくらいなら、白黒付けておいた方がいいだろう。
それにだ。廻を撥ね付けた俺の我を信じたいが、そう信じさせられているだけなのかもしれない。疑いを持たせないそれが上手い洗脳。この疑いすら洗脳の結果かも知れない。
疑いだしたら精神崩壊まっしぐら、この検査で白と出たら俺はこれについては二度と考えないこととする。
「今何時か知らないが勤務時間は終わっているだろうに、公務員なのに勤勉なんだな」
鉄格子突きの窓から外を見る限り、完全に日は落ちている。時計すらないので断言できないが勤務外なのは間違いない、そんなに俺が怖いのか。
「安心して、ちゃんと残業代は貰うから」
鈴鳴は俺に向かってウィンクをして見せた。
次の日の昼にはめでたく退院と成った。クリーニングに出されていた自分の服に着替える。銃は兎も角スタンガンなどの暗器、スマフォや財布すら取り上げられていた。返却を希望したらこっちでは預かってないと言われた。これじゃ帰れないと言うと迎えが来るから、兎に角急いで病院から出ろと言われた。
もしかして時雨さんが迎えに来てくれるのかと期待して俺が病院から出ると、黒の背広に身を固めた二人の男が待ち構えていた。
まあ、現実なんてこんなものだよな。時雨さんは契約で付き合っているのに過ぎない、自発的に何かしてくれることはないだろう。
「果無退魔官。これより査問会に出廷して貰う付いてこい」
やったことの責任、意外と早く払うことになりそうだ。
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