第6話 選択は先延ばし

「待っていてくれたんですか」

 どのくらい時間が経ったのか分からなくなった頃息を切らした声が掛かった。

 声の方を見れば、胸を押さえながら息を整えている時雨さんがいた。少し上気した頬が桃のように染まっている。

 出会えた。

 もうこれだけで俺は満足してしまいそうだ。

 服装がデートだというのに前回と同じ紺のブレザーでもいい。

「時計が無いから時間が分からないんだ。俺は待たされたのかな」

 俺に考えられる精一杯の格好付け。

「えっあっ。

ごっごめんなさい。言い訳になるかも知れないけど、緊急の仕事が入って」

 時雨さんは深々と頭を下げて謝ってくる。

 俺が無理矢理したデートの約束なんだから謝る必要なんか無いのに。それに緊急の仕事と行っていたから、きっと人の命に関わることだったんだろう。

 そこまで分かっていて敢えて俺は、其処につけ込ませて貰う。

 だって、俺嫌な奴だからな。

「なら今度からは連絡が取れるようにしないといけないな」

「そっそうだね」

「じゃあ番号教えて」

「はっはい」

 前回は拒否された電話番号、まあその代わりデートの約束を取り付けたんだが、少し負い目のある時雨さんはスマフォを簡単に出してきた。時雨さんが正気に戻る前に、さっさと番号の交換を済ませてしまう。

「じゃあ、いこうか」

「はい」

 俺が歩き出すと時雨さんは横に並んで付いてくる。

「何処に行くんですか?」

 予定から大幅に遅れて昼はとっくに過ぎている。仕事の後だからお腹が減っているのかも知れない。なら本来のデートコースを変更して飯に行くべきだろうか?

 悩む。付き合いが長ければそこいら辺をさっと読み取れるのだろうが、俺には分からない。ここはさり気なく聞くべきか。

 しかしまだ俺と時雨さんの関係は微妙。現状は俺の強引さで成り立っている。ここで主導権を渡してしまっていいのだろうか? 

 しかし空気が読めない奴と嫌われたくも無い。

 俺は一年後には時雨さんに好き成っていて欲しいだ。

 本来の自分を殺して数々の小説を読んで培ってきたイケメン思考を俺の脳内でエミュレートしろ、そして台詞を吐き出せ。

「付いてくれば分かる」

 俺は如何にもサプライズがあるかのように気取って言った。

 目的地はデートスポット、レストランも近くにある。二つが視界に入ったとき時雨さんがどっちに視線を向かわせるか、そこから導くしか無い。

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