case11. 夢の中で見た顔/SCP-096


 新人職員の研修を担当し始めてから数日が経ったある日。

 1人の新人が突然出勤してこなくなった。


「アイツどうかしたのか? 『休みます』としか聞いてないんだが……風邪か?」

「あぁ、きっとアレのせいですよ」

「アレ?」


 新人の人数が少ないということもあり、他の新人達もそいつのことは把握していたようで、もう何日も来ていない新人の様子はわかっていたようだった。


「ほら、何日か前に報告書読んだじゃないですか。収容困難なオブジェクトの例としてSCP-096の」

「? 〝シャイガイ〟のことか?」


 顔を視認すると視認した人間をどこまでも追いかけて殺しにかかる、という物騒なオブジェクト。

 あのオブジェクトの収容報告書は絶対に読ませるべきだと判断して新人達に読ませたのは俺だった。

 もちろん過激な内容も含まれる為事前に同僚にも相談したが、異論を唱える奴はいなかった。

 必ず頭に入れておいた方がいいと俺は思っている。

 恐ろしいオブジェクトの代表例として。


「SCP-096が……何だ? アレを読んで財団が怖くなったとか言うんじゃ……」


 しかしもしそうなってしまったとしたら俺は新しい芽を摘んだことになってしまう。

 そう気をもんでいると女性の新人職員が呆れ気味に答えた。


「怖くなったというか、アレはもはや病気じゃないかと」

「病気……?」

「顔を見たって言うんですよ、夢の中で」


 夢の中で? と復唱すると全員が同時に頷いた。

 どうやら新人達は退勤後に情報交換と称してよく食事に行くらしいのだが、連絡もよく取り合う仲らしい。

 慣れるには難しい財団での生活を、互いに相談し合い助け合うという目的も大きいそうだ。

 だが報告書を読んだ翌朝、欠勤続きの新人が全員にSOSの連絡をして来たらしい。


「夢の中でシャイガイを見た。後ろ姿だったけど、目が覚める直前に顔を見てしまったんだ。どうしよう、殺される! ってね」

「夢なんて脳の記憶整理が見せるものなんだから本物じゃないのにね」

「想像に過ぎないっていうのに」


 怖がりな新人以外は皆冷静で淡泊な性格らしいが、その「夢に見た」というのは初めて聞く事例だ。

 シャイガイは直視、映像や写真を通しての目視も影響を及ぼし、絵画のみならシャイガイに反応されないと報告書に明記してある。

 だが夢でシャイガイの顔を見たというのは報告書にも上司や同僚の話からでも聞いたことがない。


「……で、何か。シャイガイに殺されるから家から出ないって言うのか?」

「海底にまで追いかけてくるオブジェクトから逃げ切れるわけないのに変な話ですよね」

「しかもその次の日には夢の中で顔をばっちり見たっていうんで、面会謝絶レベルですよ。家にも上がらせてくれない」


 彼等も初めは心配していたらしいのだが、あまりにもしつこい病的な反応だというのでもう諦めてしまったらしい。

 しかし俺は彼等新人に報告書を読ませただけで、保管されているSCP-096の絵画は見せていないのに……それを夢で見るというのも奇妙な話だ。

 よっぽど想像力が豊かなんだろう。


「仕方ない。カウンセリングルームに連絡して、どうにか立ち直ってもらおう……」


 引きこもりになった新人への対処を決めた俺はその後いつものように新人の研修へと集中した。

 そしてその日の内にカウンセリングルームに連絡をし、その新人のカウンセリングを始めたという経過報告も聞いた。

 半月後。結局その新人職員はノイローゼにより財団を去った。



[CREDIT]

SCP-096「シャイガイ」©Dr Dan

http://scp-wiki.net/scp-096

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る